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SUIREN+ Coffee Roaster(広島):2018年8月#クラスパートナーロースター

次にご紹介する#クラスパートナーロースターは、広島のSUIREN+ Coffee Roaster。店主の安藤さんにお話を伺った。


コーヒーとの出会い


安藤さんは、SUIREN+ Coffee Roaster が店を構える広島県生まれ。高校卒業後は大阪の調理師専門学校で料理全般、洋菓子製造を学び、その後もJAや飲食店など、食に関わる業界で経験を積んだ。


いつかは自分でも店を経営したい、そんな夢を抱きながら過ごしていたある時、カフェ経営をしてみないかという声が掛かる。大きなチャンスをつかんだ安藤さんは、オープンまでの2年間、飲食店経営に必要なスキルを身に着けるべく、ある喫茶店で修業を始めた。その喫茶店が偶然自家焙煎を行う店だったことが、安藤さんがコーヒーと出会うきっかけとなる。


しかし、安藤さんがコーヒーの焙煎に興味を持ったのはしばらく後の事だ。カフェのオーナーになるという大きなプレッシャーの中、接客技術や喫茶メニューの調理、考案、経理など様々な実務をすべて学ぼうと意気込んでいた安藤さん。限られた時間の中で身に着けなければならないことはあまりにも多く、まずはそれをこなしたいと感じたのは当然だろう。



「自分しかやる人がいないなら、できるようになるしかない」


しかしある日、事情により店での焙煎を一手に任されることとなり、突然コーヒーと向き合わざるを得ない状況に飛び込むことになったという安藤さん。

当時は特にコーヒーが好きだという訳でもなく、状況の理不尽さに不満もあったが、とにかく自分がやらねばコーヒーが出せない。否が応でも焙煎を始めるほかなかった。


「自分で焼いてみて、失敗だというのは分かっていても、原因も対策も分からない。自分が飲んで美味しいものが分からないという苛立ちがありました」と安藤さんは当時の苦労を振り返る。失敗したものでも店に出さなければいけない事に対する罪悪感、それでよしとされてしまう環境への疑問、そして何より自分の手で作っているものを思うように仕上げられない事へのフラストレーション。責任感とプライドをもって食に関わってきた安藤さんにとって、それは何よりも辛い事だった。


しかしそこで妥協し諦める安藤さんではない。自分しかやる人がいないなら、できるようになるしかない。ちゃんとしたものを出さなければ、その一心で試行錯誤を繰り返し、焙煎の技術を着々と磨いていった。「興味を持たざるを得なかったんです」と安藤さんは話す。しかし安藤さんの食への思い、そして「自分にできる事は自分で」という信念が逆境の中で道を開いた事は明らかだろう。



 

「すいれん」から「SUIREN+」へ


その後焙煎技術にも自信がつき、無事オープンしたカフェ「すいれん」にも焙煎機を導入。自家焙煎のコーヒーを提供した。その後「すいれんのマスター」として愛され4年半、訪れる人々から「コーヒーが美味しいね」という言葉も頻繁に受けるようになった。


「コーヒーも、自分で作って美味しいと思ってもらえることがあるんだ、そう気づいてからは、焙煎は自分でやりたいという思いがより強くなりました」と安藤さんは振り返る。経営体制が変わり店を畳んだ後も、安藤さんのコーヒーを愛する人々の要望に応え、自宅に焙煎機を置き個人での豆販売を始める事になる。


広島県内はもちろん、なんと岡山まで車に乗って自ら配達を行っていた安藤さんだが、その努力が未来を切り開くことになる。配達先で声をかけられ呼ばれて行ったイベントで、思いがけない再会があったのだ。イベントスペースの隣にある建物のオーナーが、なんと安藤さんが幼い頃に近くに住んでいた夫妻で、安藤さんの事を覚えていたのだ。安藤さんがコーヒー豆を売っていて、店舗を探している事を耳にした夫妻は、これからここにパン屋さんやコーヒー屋さんを出したいと思っている、良かったら出店しないか、と声をかけてくれた。SUIREN+Coffee Roasterの誕生だ。



「まだないものに挑戦できる、このエリアだからこそのチャンス」


SUIREN+を訪れる人の多くが、地元の人々だ。エリアに受け入れてもらう過程でまず壁になったのが、価格設定だった。Qグレーダーを取得しスペシャルティコーヒーに特化する前の安藤さんのコーヒーは500円程度だったが、SUIREN+オープン後、提示したのは700円から800円。なぜそんなに高いのか、何が違うのか、寄せられる質問に、安藤さんは正直に向き合った。スペシャルティコーヒーの中でもグレードの高いものを使うようにした事、それを含めこの値段でなければ運営ができないという事―地域で新しいことを始めるにあたって、ごまかしや妥協は選びたくなかった。


「人でも物でも、悪いところを見つけるのは簡単。でも、いいところを見つけるのは難しいですよね。自分がいいと思うものを分かってもらえるように工夫しています」

深煎りが定着している上に、何かを選ぶ時に冒険する人が少ないエリアだと感じると、安藤さんは話す。しかしそれも、選ぶのが楽しくなるような豊富なラインナップやサンプルの提供、会話を通して次第に変化してきた。一度買ってもらえれば、「高くても美味しいね」、「この間のコーヒー美味しかったよ」と、ポジティブな感想が次々に寄せられるようになったのだ。


店頭に並ぶのは8-15種類。スタッフによるしっかりとした説明に加え、商品の隣には味わいを想像しやすいような説明ラベルを置いている。地域のパイオニアとして、試練も多いが、それも大きなチャンスとして捉えている。



焙煎への思い


安藤さんが愛用する焙煎機はギーセン。使いやすさに加え、当時はまだ日本でギーセンを使っているロースターがほとんどいなかった、そのユニークなチャンスに心惹かれ、採用した。


それまで使用していたフジローヤルから移行すると、やり方をあまり変えずとも納得のいくコーヒーが焼けるようになってきた。「焙煎機の特性を知り、焙煎の知識と技術を身に着けスキルアップすることで、もっと美味しいコーヒーが焼ける、そう考えると俄然楽しくなってきたんです」そう語る安藤さん。毎回生豆を自らサンプルし選定、美味しいと思うものを自分で確認してから焙煎に取り掛かる。


その後、様々な競技会に出場するにつれ、コーヒーというものを総合的に理解するためには、やはり焙煎という工程をより深く理解し、他人にも伝えられるようにならなければという思いも湧いてきた。ロースターチャンピオンシップは、自分の実力がどの程度の位置にあるのか知る機会でもあり、多くの人と出会い、彼ら彼女らから焙煎方法はもちろん様々な事を学んだ貴重な体験だ。


決勝戦に残る程の実力を身に着けてからも、学ぶ事はまだまだ多いと安藤さんは言う。大会は大会の勝ち方があり、それが実際に店頭で個人と向き合ったときの「美味しいコーヒー」とはまた違うという事も理解した。JCRC(ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ)ファイナリストとしての肩書を背負う今は、お客様に対しての自分の言葉にも説得力が出たと同時に、責任も出てきたと感じている。


 

産地との関わり


年に6-7回は産地に足を運ぶという安藤さん。様々な国を訪れ、Qグレーダーの資格を持つ安藤さんにある時ラオスから声がかかる。ダイレクトトレードに興味を持っていた安藤さんはすぐに渡航を決めた。到着して初めて見せられた生豆は、不良も多く混ざる、一見質の低いもの。ダメで元々と、いい豆をピックしフライパンで焼いてみると意外に味が良く、一気に興味を惹かれたという。まだパーチメントが付いたティピカもあり、剥いてみれば衝撃を受けるほど美味しいものも。「もうエチオピアといっていいほどのレベルで、これができるならまさに原石だと感じました。頑張ってシステムを整えて質を上げていけば、トップスペシャルティも夢ではない」当時の興奮をそう振り返る安藤さん。その足でラオスのコーヒー協会に向かい、展示会などにも足を運んだ。


何もでき上っていない、先がどうなるかわからない現状。自分で携わっていきたい、と思わせてくれる空気感に、安藤さんはすっかり魅了された。

現在では、ラオスでQグレーダーを育てる事を目標に、積極的に働きかけている。

ほとんどの人がエチオピアやケニア、ゲイシャ種などに注目する中、ラオスに関わることは挑戦し甲斐のある大きなチャンスだと感じている。



「動けば必ず何かいい事がおきる、そう思うタイプです」


各地のイベントに頻繁に参加し、台湾やラオスなど国外でも活躍の場を広げるSUIREN+ Coffee Roaster。そのフットワークの軽さの秘訣は何なのか、訪ねてみるとこんな答えが返ってきた。


「店はずっとこの場所でやっていきたい、でも自分はもっともっと色んな場所で経験を積んで、成長していかなければならない。自分の仕事は、変わらず地味にやっているよりも、楽しそうにやっているほうがお客さんもここへ来たくなると思うんです。動けば動くほど、声もかかるようになるし次につながる。動く意味はゼロじゃない。動けば必ず何かいい事が起きる、そう思うタイプです」


60歳、70歳になっても変わらず自分の店でコーヒーを淹れているマスター、そんな姿に憧れる気持ちもある。店頭に立つ時間が減ると、訪れてくださる人々に申し訳ないと思う気持ちは強い。しかし今は動く時期であると感じている。いいものはどんどん変わっていき、しかしその核にあるものは形を変えても残る。地域のお客様にこれからも「おいしいコーヒー」をお届けできるよう、日々精進あるのみ。そんな信念のもと、必要とされる場所へ、呼ばれる方へ、安藤さんはこれからもどんどん足を運ぶ。