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Kurasu Journal

Tag: Featured Roasters

Gluck Coffee Spot (熊本): 2021年6月 Kurasuパートナーロースター

今月ご紹介する#クラスパートナーロースターは、熊本のGluck Coffee Spot。 熊本の中心地に2017年にオープンした本店のGluck Coffee Spot、パティシエが創り出す焼き菓子とコーヒーのペアリングを提案する姉妹店、licht coffee & cakes (リヒト コーヒー&ケークス)、そして焙煎所と、3つの店舗を切り盛りするのはオーナー、ロースターの三木さんだ。   コーヒーとの歩み 自家焙煎経験ゼロからスタートしたという三木さん。お店を始める前は、アパレルショップの一角にあるバーカウンターでコーヒーを淹れていたそう。そこで提供していたのは熊本の有名店、AND COFFEE ROASTERSのコーヒー。彼らのコーヒーは、三木さんのスペシャルティコーヒーとの衝撃的な出会いをもたらした事でも思い出深い味だ。     熊本城にほど近い古民家をリノベーションした本店は、年月を重ねた木の温かみが感じられる居心地の良い空間。2019年にオープンした2店舗目のlicht coffee & cakesは、熊本駅前の便利な立地で、同じく木材を基調にした内装だがよりすっきりとモダンな印象だ。去年オープンしたばかりの焙煎所は、本店から車で30分程度走った所、住宅地の一角にある。広い空間に、コーヒー器具が並び、プロバットの5㎏窯がどっしりと厚みのある存在感を放っている。 「個人的には浅煎りのフルーティーなコーヒーが好き」と話す三木さんだが、お話を伺っていて興味深かったのが、店舗によってガラリと変えた雰囲気と、それに合わせた業務形態の違いだ。     「提供するコーヒー豆は店舗ごとに使い分けているんです。2店舗目のリヒトにはパティシエがいて、お菓子とコーヒーのペアリングを提案するカフェに特化した形で営業しています。来てくださるのは20代前半の若い方たちが中心で、ラテなどエスプレッソベースのドリンクが人気です。フィルター抽出の注文との割合は7:3ぐらい。ところが本店はほぼ真逆で、フィルター抽出が中心によく出ます。来てくださるのは高校生〜年配の方まで幅広い層。同じ熊本で、地域が同じでもこれほど違いが出るのは面白いですね」と三木さん。 お店をはじめたばかりは深煎りを求めてやってくる人が多く、今でも幅広い好みに合わせて楽しんでもらえるように、中煎りと深煎りのブレンドも提供している。   Gluck Coffeeの焙煎 三木さんが焙煎するコーヒーを表現するキーワードは、「クリーンカップ」と「スイートネス」。信頼するインポーターから買い付けた豆を、まずは浅めに焙煎し、カッピングと微調整を繰り返しながら、ホットで飲んでも、アイスで飲んでも、更には水出しでも美味しいGluck Coffeeの味に仕上げる。 「焙煎も抽出も、スイートな印象に作り上げること、口当たりもよく甘くて、冷めても飲み心地がいいカップに仕上げる事を心がけています。また、抽出器具でガラッと印象が変わらないのもGluck Coffeeブランドのコーヒーの特徴です」と三木さんは説明する。 現在は産地からダイレクトトレードを行っている九州のインポーターから豆を仕入れている。現地の情報をリアルに伝えてくれるので、扱う豆や産地、生産者に親近感を持って接する事ができるのが魅力だという。     熊本と三木さんのこれから 大分出身だという三木さん。「熊本のいいところは?」と伺うと、大きすぎず小さすぎず、規模感が良いところ、流行りに敏感な県民性、そして食材が美味しくご飯が美味しい所、と教えてくれた。 「カフェは多いのですが、自分の世代で、というと熊本はまだ(コーヒー屋さんが)少ない。地元への愛着が強い人が多い熊本ですが、若い人たちがコーヒーをやりたいなと思っても地元で働く場所がないのが現状です。九州なら福岡に行くのがほとんどですね。 熊本にも少しずつお店が増えたら、働く場所が増えるし、そうすることで熊本出身のバリスタもちょっとずつ育てていけたらいいな、と思っています」と三木さんは話す。 今後の展望としては、技術向上、そしてより深く素材を理解すべく、自分でも産地へ行ってみたいそう。「自ら買い付けをするとなるとそれだけ消費量も多くならなければいけない。お店を始めて5年目になるけれど、ここからどうしようかと話し合っています」という三木さんの眼差しは、未来へ向けて輝いていた。 Gluck は、ドイツ語で「幸せ、幸福」を意味するという。様々な人々の好みやライフスタイルに柔軟に寄り添う三木さんは、これからも、熊本を愛する人々、そして日本中、世界中へ幸せを届けてくれることだろう。  

ABOUT US COFFEE (京都): 2021年4月 Kurasuパートナーロースター

今月の#クラスパートナーロースターは、京都のABOUT US COFFEE (アバウトアスコーヒー)。2019年10月にオープンした比較的新しいコーヒーショップだが、コンセプトやコーヒーに出会いにやってくるお客様への接し方など、考え抜かれ提供されるコーヒー体験とおしゃれなインテリアですでに多数のファンを持つお店だ。人気のコーヒー系YouTuber、カズマックスさんのブレンドも手がけている。今回は、そんな新進気鋭のロースター、店主の澤野井さんにお話を伺った。   「お店はキャンバス。来てくれるお客さんや、コーヒーを淹れるスタッフがこの空間にいてくれることで完成する場所」   京阪伏見稲荷駅から徒歩4分ほど歩いたところにあるABOUT US COFFEE。隣接しているのは京町家を改装した宿、「稲荷凰庵」と、風情のある小道へ大通りから一本入ったところに店舗がある。「白いキャンバスのようにしたかったんです。お客さんやスタッフがこの空間にいてくれることで、絵が完成するような」と澤野井さんが説明してくれた店内に入ると、一階はモノトーン、二階のイートインスペースは雰囲気が変わって白を基調にしたラグジュアリーな空間。近隣の大学に通う学生たちを含め、比較的若い世代が素敵な空間と美味しいコーヒー、フードを楽しみに訪れる。   焙煎機はディードリッヒの2.5kgを使い、品揃えは浅煎りを中心にシングルオリジンの深煎りまで、常時6種類程度を提供している。   「深煎りやエチオピアのナチュラルが人気です。エチオピアだから、というわけでもなく、まだどんなコーヒーが好きか分からないという方が、あっ、美味しい、好き、とおっしゃる事が多いです。僕もはじめエチオピアから入った事もあってやっぱりエチオピアは強いなぁと思います。個性のあるコーヒーを色々と揃えていますが、コーヒー、と聞いて思い浮かべる味わいはやはり苦みなのか、深煎りもよく出ています。パティシエのスタッフも新しく入ってくれたので、浅煎りの美味しさもどんどん伝えられるように、新作のお菓子ではペアリングについても考えています」と、澤野井さん。   コロナ禍、オンラインでつかんだ新たな道筋   コロナウイルスの影響でやはりカフェを訪れる客足は減ったと話す澤野井さん。去年の四月には、家賃と固定費を払い、スタッフにお給料を渡すと何も残らない、というところまで売り上げが落ち込んでしまったという。色々な方法を模索する中、オンラインストアをオープンした。さらにYouTuberのカズマックスさんのブレンドを手がけたところ、一気に100㎏分ほどの注文が。   「YouTuberの力はすごい、本当にそう思いました。オンラインストアをはじめたばかりでいきなり大量の焙煎や注文管理、発送作業に対応したことで、色々と課題点も見えてきました。どうしようかと思いましたが、大量に焙煎する時の品質の安定、そして更に向上させることも含め、早い段階で色々な課題がしっかり見えて、レベルアップできたので良かったと思います。今後ロースターとしてしっかり認知されていくにあたって、客観的な基準というか、肩書にも拘っていきたいと思います。Qグレーダーの資格は持っているのですが、さらにJCRC(ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ)などの大会にも挑戦していきたいです」、そう澤野井さんは当時を振り返る。   全く違う業界からコーヒーの世界へ   「自己表現が苦手で、言葉以外で表現できる手段が洋服だった」と話す澤野井さんは、ABOUT US COFFEEをオープンする前は、ハイブランドの販売員をつとめていた。   銭湯を営む家で育ち、自営業という環境が身近にあった澤野井さん。いずれは自分もお店を、と思っていたという。洋服が好きで、自然とファッションの道へと進んだ。洋服に込められたデザイナーの想いやコンセプトを知り、その魅力を顧客に伝える仕事は充実したものだった。個人でもファッション関係のインスタグラムのアカウントを運用し、一時期はフォロワーが8千人ほどいたこともあるという、天性のストーリーテラーだ。   しかし、自分で何か事業を、と考えたとき、澤野井さんが選んだのはスペシャルティコーヒーだった。「社会人になるまでコーヒーは飲めなかったです。勉強のため、眠気覚ましのために飲む苦いものだと思っていました。でもある時LiLo Coffee Roastersさんでラテを飲んで、そのフルーティーさにびっくりして。ラテからこんなベリーの味がするんだ!と思いました。そこを入り口に、コーヒーの特徴やフレーバーにも興味を持って、ブラックコーヒーも飲むようになりました」と振り返る澤野井さん。   自分でも美味しいコーヒーを淹れられるようになりたい、そんな気持ちが高じて、食に関わるプロを育成する専門学校、レコールバンタンに入学。バリスタ、抽出の基礎的なコースを選択し、その後さらに深くコーヒーを学ぶため、続けて焙煎のコースを受講した。   「京都にはコーヒー屋さんが多いし、その中でも自分なんてまだまだ、と思います。でも、たくさんあるからこそ巡ってくれる人も多いだろう、と考えて出店を決めました。カフェ巡りをする中で、うちが候補の一つになってくれたら、そして来てくれた時に、期待値以上のものを出せたら自然と口コミなどで広がっていくだろう、と考えています。」そう話す澤野井さん。   自分でお店を立ち上げる、と考えた時、アパレルのセレクトショップをするのも何か違う、と思ったという。だからといって、自分で洋服を作れるか、というとその部分は専門ではない。それまで澤野井さんが積み重ねてきたスキルというのは、顧客と話し、ブランドのストーリー、デザインの後ろにあるものを伝える事でその人と商品とのマッチングをすることだった。    「そういう意味で、生産者のストーリーがあって、豆に個性があって、自分も面白い、美味しいと思うものを紹介していくスペシャルティコーヒーショップが良いと思ったんです。 だからコーヒーショップって、基本的にアパレルのセレクトショップと同じだと思っています。来てくださる方にマッチするコーヒーが見つかるように、色んな産地や品種、プロセスが並ぶように心がけています。Qグレーダーの視点から、客観的にポテンシャルが高そうなもの、ラインナップがかぶりそうじゃないもの、甘味がしっかりあるもの、など、幅広いタイプのコーヒーを提供しています。」と、澤野井さん。   自らのスペシャルティコーヒーとの出会いを振り返ったとき、澤野井さんにとっての「正解」は、エチオピア、浅煎りのフルーティーな味わいだった。けれど、他の人にとっての正解はまた違うかもしれない。そう澤野井さんは言う。だからABOUT US COFFEEでは、豆の多様性、焙煎度合いの多様性を大切にしながら、豆の個性が出やすい浅煎りの魅力も伝えられるように力を入れている。   「店内をキャッチ―なデザインにしたこともあって、若い世代の方が多く来店されます。コーヒーが飲めない、という人がいらした時にコーヒーを好きになるきっかけになれるよう、まずはコミュニケーションをしっかりとって、どんなコーヒーをお勧めするのがいいかをきちんと見極めます。例えば、苦いのが苦手、といっても、その”苦い”にも色々ある。焦げたような苦さか、レモンの皮を噛んだような渋さか。人によっては、その”苦い”は”酸っぱい”かもしれない。あとはその日の気分でも飲みたいコーヒーって違いますよね。安心したい気分か、挑戦してみたい気分か。その辺りも、試飲やヒアリングしながら接客を進めます」澤野井さんはそう説明する。...

辻本珈琲(大阪) : 2020年3月#クラスパートナーロースター

今回ご紹介する#クラスパートナーロースターは、辻本珈琲、又の名を「株式会社すてきなじかん」。五代目として日本茶屋に生まれた辻本さんがコーヒー事業を立ち上げたきっかけとは。 そしてコーヒーがもたらす「すてきなじかん」の思いとは。インタビューを通して伺った辻本さんの想いを紐解いていく。 老舗の日本茶業からコーヒーの世界へ 幼少の頃から、5代目として家業を継ぎたいと思っていたという辻本さん。しかし大人になった頃には、日本茶産業を取り巻く環境や、世の中の流通の仕組みがすっかり変わっている事に気が付いたのだという。そんな時に縁があり始めたコーヒードリップバッグの製造・販売業だったが、東日本大震災をきっかけに、コーヒーは辻本さんにとって大きな意味を持つものになる。 「お陰様で全国にお客様がいらしたのですが、震災の後、東北のお客様方としばらく連絡がつかなくなったんです。数ヶ月後にご連絡をいただいて、『連絡ができていなくてすみません、大切なものをたくさん失ったけれど、コーヒーがあったことでなんとか支えられていました』と。その時に、コーヒーってこんな風に、支えや気持ちの切り替えになるものなんだと気づいたのをきっかけに、惹かれていきました。それ以降、コーヒーの風味や品質自体にもどんどん興味が湧いて、SCAJに参加したりして。スペシャルティコーヒーにもそうして出会いました」そう辻本さんは振り返る。     辻本珈琲の焙煎 ドリップバッグの製造歴ははや16年という辻本さんが自家焙煎を始めたのは、今から3、4年前の事。それまでは仕入れたコーヒーを加工していたが、出荷量が増え、次のステージを見据えた時に、原材料ともっと近い所で品質管理にも携わりたいと考え、焙煎を開始した。 はじめに使っていたのは直火式焙煎機で、ガス圧は低め、ダンパーはしっかり閉め、4㎏窯に対して3㎏のコーヒーを入れて、30分弱の時間をかけてしっかり火を入れる焙煎をしていた。しかしその内に浅煎りのコーヒーのフローラルなアロマや爽やかな酸味にも興味を持ち、様々なセミナーに参加し新しい焙煎方法を模索したという。 昨年、ローリングスマートロースターも加え、焙煎方法もより素材の良さを失わないように取り組んでいる。 「数年前に受けたデンマークでローリングを使用するMichaelさんのセミナーでは、トータルタイムが味に大きく影響すると教わりました。カッピングで検証したら本当にフレーバーが全然違ったんです。窯から出す温度帯が同じでも時間が違えば味が違う。それ以降は自分でも試行錯誤を重ねています。例えば、直下式焙煎機4kgでしたら特性上ダンパーを開けすぎると火力が負けるので、はじめはダンパーを閉め気味でしっかりドラム内にエネルギーを伝え、メイラードに入るときから少しずつ火力を落としていき、さらにダンパーも開けて対流を加える、といった微調整をしながら焙煎をしています。ハゼのところから特にロースティにならないよう注意しています。今は浅煎りだと10分くらいを目安に焙煎しています。」と辻本さん。     “すてきなじかん”  辻本珈琲といえば、カフェのメニューにはずらりと魅力的な選択肢が並び、オンラインショップではスペシャルティーのシングルオリジンや、ブレンド、デカフェや、色々なパンに合わせて楽しめる「ぱんじかん」など、幅広い商品展開が印象的だ。「ここまで多くなったのは成り行き」と笑う辻本さんだが、新しいコーヒーに出会うたびに、こんなものがあるのか!と新鮮な驚きを感じ、その面白さをお客様やスタッフと共有したくなるのだという。 「コーヒーってスイッチのようなもの。気持ちを切り替える役割があって、一旦自分をリセットしてくれるような存在だと思っています。『雨あがりのじかん』というドリップコーヒーがあるのですが、それもそんなコーヒーへの思いを表現したものです。ある時偶然立ち寄ったお店で、店員さんが常連さんらしき方をお見送りする所に居合わせたことがあったんですが、店員さんが扉を開けながら『あ、雨やみましたね』とお声がけをしていて。その時にぱっ、と切り替わった雰囲気が、コーヒーを飲む前と飲んだ後の気持ちに似てるな、と思ったんです。そんな瞬間から、僕らのコーヒーがうまれることもあります」そう辻本さんは話す。「モノとしてのコーヒーではなくコーヒーを通して始まる“すてきなじかん”」を届けたいというモットーが息づいているのが感じられるエピソードだ。     通信販売だからこそできること  2005年に楽天市場を通しても通信販売をスタートさせた辻本珈琲。元々はカフェのオープンに備える段階として、より多くの人々へ自分たちの商品を知ってもらいたい、楽しんで飲んでもらえたら、と始めた通信販売だったが、始めてみると意外な発見があった。 「関西の店舗だけでは決して出会うことのなかった、青森、東京、九州のお客様にも通信販売を通して見つけていただけて。対面の方が実際にお目にかかれて良いような気がしますが、お届けするまでのご案内を含めたやり取り、お届けした後のフォローやお客様からのフィードバックなど、通信販売なら何度もコミュニケーションをとる機会があるんです。それに気づいてからはより一層、今あるプラットフォームでできる事をしっかりとやっていくことを心がけています」と話す辻本さん。届いた時の感動を体験してもらえるよう、梱包チームにも「お客様の顔は見えないけれど、いつも目の前のお客様のために包んでいるような気持ちで。大事な友達に送るような気持ちで梱包すれば、絶対に伝わるものがある」と日々話しているという。     これからの辻本珈琲  しばらくは通信販売をメインに提供できるサービスをより充実させていきたいと考えている辻本さん。飲食店など、コーヒーがメインでない場でももっと美味しいコーヒーが飲めるような環境づくりに貢献したいとも考えている。「旅行も好きでよく行くんですが、色々な場所の宿や観光施設などとも協力して、旅先で過ごす時間に寄り添うコーヒーもお届けできれば、そう思っています」と辻本さんは微笑んだ。 人々の生活スタイルやコミュニケーションがより多様になるにつれ、これまでとは違った様々なニーズも生まれている。その中で核となる価値観や、人と人とのやり取りであるという基本はそのままに、しなやかな成長を遂げてきた辻本珈琲は、コーヒーに限らず、私たちのこれからの道のりの、豊かな可能性を示してくれている。  

明暮焙煎所(神戸) : 2020年2月#クラスパートナーロースター

今月ご紹介する#クラスパートナーロースターは、兵庫県・神戸に店を構える明暮焙煎所。 いつも家族連れで賑わい、地元の人々に愛される焙煎所兼カフェは、今年でオープン3年目。店主の田村さんに、これまでの道のりと、これからのお話を伺った。   明暮焙煎所ができるまで 元々は舞台役者としてキャリアを積んでいたという田村さん。学生時代から、何かを表現するという行為に魅せられ、役者の道に進むことを決めた。上京し、事務所に所属しながら養成所に通った。「台本の読み込みや打ち合わせなど、とにかく読み物がすごく多いんです。それで毎日のようにカフェを使っていました」と田村さんは振り返る。初めは大手チェーンに通っていたが、次第にあまりの人の多さと、忙しない空気に心が休まらない事に気がついたという。自らと向き合い続ける役者という仕事と、その道を進んでいるがための不安、そしてストレス。田村さんの足は、自然と個人経営の喫茶店へと向かうようになった。落ち着いた、静かな空間で迎えてくれるマスター。丁寧に淹れてもらった一杯を、じっくり味わいながら会話に癒される場所。そこにはどこか、芝居を作り上げる姿勢、劇場という空間に世界を形成する技術に通じるものがあった。 30才を迎え、ライフステージの変化も視野に入れ始めた頃、表現する場が誰にでも平等に与えられているわけではない、という事実について改めて考えたという田村さん。しかし、その場というのは演劇だけとは限らない。人が表現し、作り上げる空間には、もっと色々なものがある。夢を追う日々、疲れていたり、落ち込んでいたり、作業に没頭したい日だったり、そんな色々なものを抱えて訪れても、全て受け止めてくれた場所。そんな場と、それを作っている人が、癒しをくれて、コーヒーを美味しくしてくれた。そういうものを自分で作ってみたい-そうして田村さんが選んだ新しい舞台が、カフェという空間だったのだ。 恩師たちとの出会い 神戸に戻り、カフェをオープンすると決めてからは、ひたすらに勉強の日々が続いた。一から自分の手で表現したいという思いから、焙煎も全て自分で行うと決めていた。それだけに、学ぶべき事は多かった。 飲めば焙煎した人の人柄まで分かるような、そんなコーヒーを作りたい。それが実現できると教えてくれたのが、みなと元町のヴォイスオブコーヒーとの出会いだったという。 「イエメンのコーヒーを飲んだらそれがとっても甘くて、人柄が思いきり出ているような味で。すごくオープンマインドな、自分が持ってるものは全部教えるという方で、すごくお世話になりました」と田村さんは話す。富士珈機のセミナーに通いつめ、そこで焼いたものを持ち込んではカッピングをしてもらい、自宅に帰れば鍋を使って爆ぜの様子を研究した。 その後、ハーバーランドで開催されたイベント「コーヒーと映画」で、田村さんはもう一人の恩師に出会う。生豆・焙煎豆の販売から機器の販売、セミナーまで幅広く手がけるマツモトコーヒーの松本氏だ。生豆の仕入れ先を探していた所へ訪れた出会いで、コーヒー生産・消費の過程における、人を大切にする姿勢も共通するものがある。田村さんは早速相談に訪れた。それ以来松本氏は、焙煎やカッピングなど、大切な技術を惜しみなく教えてくれる師匠のような存在だ。 形を変えて紡がれる田村さんのストーリー それから4年ほど働きながらコツコツと資金を貯め、ついに明暮焙煎所はオープンの日を迎える。「準備期間はひたすら勉強、でしたが、スペシャルティコーヒーがとにかくおもしろかった。特に、それぞれの豆に生きたストーリーがある所が好きですね。マツモトコーヒーは産地から直接生豆の買い付けをするので、生の声を拾ってきたものに触れられるんです。コーヒーを理解し、焙煎する際のストーリーの必要性って、芝居をやっていた時の考え方と同じで。どう台詞を読むか、というだけではない、自分で納得しているからこそ出てくるものには、ストーリーが必要なんです。それを理解した上で焙煎するのが大切だと考えています」と田村さんは話す。  「自分にしかできないコーヒーって何だろう?と考えた時に、コーヒーの存在感がまだない場所でやりたいと思いました。一から、コーヒーの魅力を知ってもらいたい。そんなコンセプトで、明かりを灯す、暮らしの中に入っていくコーヒーを作る。そういう意味を込めて、この名前をつけました」そう説明する田村さん。  今では親子連れが多く訪れ、時には3世代の家族が訪れるという明暮焙煎所。地元の暮らしにしっかりと馴染んだ店に成長した。3年の時の流れの中で、来てくれる子供達も大きくなった。ここで店を続けるという事には、ただビジネスを続けていくだけではない、人と人との濃密な時間を積み重ねていく事なのだ、そう実感している。  明暮焙煎所のコーヒー 明暮焙煎所では、ブレンドが5種類とシングルオリジンが7種類の合計12種類からコーヒーを選ぶことができる。ブレンドはそれぞれ、田村さんがフレーバーや時間帯をイメージして作り、名前をつけている。 「中煎りとして売っているのは、他に比べれば浅煎りに近いと思います。町の流れに合わせていきながら、浅煎りをもっと増やしたいですね。目指しているのは、浅い所から深い所まで幅広く、でもとにかく優しいコーヒー。バン!と派手な感じではなく、毎日に馴染むような味。浅煎りを買いに来てくださるのは若い方が多く、全体では中深煎りや深煎りがよく売れます。酸っぱいものはちょっと、というのがまだ根強いですね。ですが、最近は浅煎りに興味を持ってくださる方も増えて、確実に流れは変わって来ているな、と感じています」そう田村さんは説明する。  焙煎機はフジローヤルの半熱風式。無理なカロリーを与えず、とにかく優しく仕上げるのが田村さんの焙煎のポイントだ。操作も最小限に抑え、豆に無理のないように味わいを引き出しているという。「これからも他のロースターさんから学び続けて、幅広く消化して勉強していきたいです」と、意欲を見せた。 これからの歩み 今後はイベントなどにも時折参加しながら、あくまでも自分たちの町の暮らしのリズムを大切にしていきたいと言う田村さん。「同じ場所で続けていると、その限られた中で正解を見つけようとして、どんどん頭が固くなっていく怖さがある。そういう時にイベントに出ると、気付かされることがすごく多かったりするんです。自分たちの表現をもっとしていく場として、イベントに出ていくのもいいかも、と思っています」と話す。 産地を見にいきたいという思いも強くなる一方だ。文字だけでは伝えられない、目で見て、体で感じた匂いを町の皆に共有したい。そんな想いがある。明暮焙煎所で飲むコーヒーが、初めてのスペシャルティコーヒーだという人も少なくない町で、人々のリズムに合ったコーヒーの飲み方、伝え方をこれからも模索していく。セミナーなど、やりたい事も山積みだと目を輝かせる田村さん。これからも明暮焙煎所は、日常の中の特別な時間を等身大で楽しめる、そんな場を人々に提供していく事だろう。  

Goodman Roaster Kyoto (京都) : 2020年1月#クラスパートナーロースター

2020年第一回目の#クラスパートナーロースターとしてご紹介するのは、京都のGoodman Roaster Kyoto。台湾の阿里山で栽培されているコーヒーを主に専門で扱うロースターだ。オーナーの伊藤さんは、旅行で訪れた台湾で阿里山コーヒーの可能性を見出し、空港の片隅、「下敷き一枚」の販売スペースで、異国でゼロからの挑戦を始めた。現在では台湾で2店舗を経営し、現地のコーヒーカルチャーを動かしているGoodman Roaster。昨年11月に、日本一号店となる京都店がオープンした。言葉がわからない、初めて住む場所、台湾。そこで文字通り身一つでスタートし、台湾から日本、京都へと旅を続けてきた伊藤さんーその道のりには、いつも背中を押してくれた恩師の言葉と、家族の支えがあった。 阿里山コーヒーとの出会い 東京で生まれ、最初のキャリアはアパレル業界でスタートしたという伊藤さん。25歳の頃に、かねてから強く憧れ志望していたスターバックスに入社した。そこから5年間、主に都内の店舗でバリスタとして経験を積んだ。 「スタバでは、エンターテイナーとしての技術、そしてホスピタリティについてとてもたくさんの事を学びました」そう伊藤さんは話す。しかし、大企業特有の不自由さや閉塞感、マネジメントに徹する店長への昇進のオファーなどが、次第に伊藤さんの心をバリスタという仕事へ向き合う純粋な姿勢以上に圧迫するようになってきたという。 このまま働いていても、コーヒーの生産から消費までのほんの一部しか見ることができない。もっとコーヒーについて知りたい、色々な経験を積んで、接客技術の幅も広げたい。そう考えるようになった伊藤さんは、「日本から一番近く、真剣にコーヒーを栽培しているのは台湾」と友人から聞いたのをきっかけに、台湾のコーヒーの産地である阿里山を訪れた。「山に行った時に、そこで採れたコーヒーを浅煎りで、サイフォンで淹れてくれたんです。浅煎りを初めて飲んだのがその時で、サイフォンで。衝撃を受けました」と、伊藤さんは今も鮮やかに心に残っている瞬間を振り返る。阿里山コーヒーとの出会いだ。 恩師との出会い さて、伊藤さんには、若い頃から尊敬し、著作は全て読んでいるという憧れの人がいた。クールジャパンなどの旗振り役を務めた、伊勢丹の伝説的なバイヤー、故・藤巻幸夫氏だ。そんな憧れの人が、偶然伊藤さんの勤務していたスターバックスに訪れた。「思わず声をかけた」と伊藤さんは言う。面白いやつだ、と気に入られて以降氏との親交は続き、それに伴って伊藤さんの旅路も大きく変化することになる。 藤巻氏との出会いから1年後、JRとの協賛企画であり<日本発信>をテーマとしたコンセプトショップ、「Rails 藤巻商店」のオープンに際し、伊藤さんに声がかかった。伊藤さんは藤巻商店の一員として店に立ち、休日には藤巻氏と日本全国を巡って焼き物、食品、着物と日本の名品をキュレートする旅に出た。 2年ほどが経ち、藤巻氏の政界進出を機に、Rails 藤巻商店は店をたたむ事になる。ちょうどその頃、以前の訪問以来連絡を取り続けていた台湾の農園からも閉業の知らせが届く。何とか続ける方法はないか。そんな思いで、当初は日本への卸売のルートを確立させようと考えた。しかし海外で事業を行うのは、大きな賭けだ。相談する人皆に反対されたアイデアだったが、藤巻氏だけは賛成してくれた。藤巻氏がいつも言っていたのが、「日の目を見ていない商品に、スポットライトを当ててやれ」。今回も、やってみろ、と背中を押してくれたのだ。   いざ台湾へ そうして台湾行きを決断した伊藤さんだったが、何しろ言葉が分からず、資金もない。手始めに、シェアロースターを借りて阿里山コーヒーの焙煎を始めた。しかし中国語が話せない為に、現地の人々相手に商売ができない。さらに阿里山コーヒーと言うと、地元の人々の間では「あまり出回っておらず、サービスエリアで飲むようなコーヒー、とにかく高い、まずい」という不評がすでに根強く、あの日阿里山で飲んだ浅煎りの美味しさを伝えられるようになるにはあまりにも道のりが険しい。 そこで頭を絞った結果、羽田空港からの定期便が発着する松山空港で、日本人旅行客をターゲットにコーヒーを売ることを思いついた。 知人のつてで免税店のバイヤーを紹介してもらい交渉した結果、「日本行きのゲートのエリアで、1ヶ月だけ契約、売り上げの50%は免税店に」と言う約束で販売できる運びとなった。割り当ててもらえたのは、下敷き一枚ほどの小さなスペース。そこで試飲販売をしながら、焙煎した阿里山コーヒーを売り始めた。 家族も共に移住して、子供も生まれたばかり。絶対にこのチャンスをものにしなければ、と心を決めた伊藤さんの猛進が始まったのがそこからだ。とにかく声を出して少しでも多くの人に興味を持ってもらい、販売時間以外は到着ゲートに行き、警備員に止められながらもチラシを配っては、「帰国される時に空港でまたぜひ」と呼びかけた。そんな努力の甲斐あって、「面白い日本人が台湾のコーヒーを売っている」と口コミが広がり、1日15万円を売り上げるほど注目を集めるまでになったのだ。 当然契約は毎月のように更新され、半年ほど販売を続けていると、台湾の雑貨店からも声がかかるようになった。Fujin Treeや誠品書店など、知名度のある雑貨店に取り上げられるようになると、テレビの取材やビジネス雑誌への掲載などの依頼も立て続けに入り、認知度が一気に上がったという。2013年には最初の実店舗をオープンし、その後台湾に4店舗、香港に1店舗を構える大人気ロースターへと成長することになった。 転換期 ビジネスの規模はどんどんと大きくなり、一時期は従業員の数が20人を超えるほどの大所帯となったGoodman Roaster。しかしそこで、次第に難しさも感じ始めたと伊藤さんは振り返る。自分以外のスタッフ全員人が台湾人で、育った環境や文化の違い、そして専門性の高い会話における言語の壁、さらには経営に対する意識の違いなどが徐々に浮き彫りになって来たのだ。台湾という異国の地で、日本人が経営するという困難と苦労、そしてそれに時間やエネルギーを割かなければいけないために、思うように若手を育てられないストレスと焦り。伊藤さんは断腸の思いで台湾の2店舗のみを残し、「選択と集中」の決断をした。 規模を小さく丁寧に再出発したところ、売り上げも伸び、その経験を機に伊藤さんの中で変化が起こった。「ビジネスを大きくする事に、全く興味がなくなりました。自分はそれよりも、自分自身の成長に集中したいんだ、そう気がつきました」と伊藤さんは話す。「今はバランスを整える事に重きを置いています。例えば、お金を理由にして食べたいものを食べない、などという決断はしたくない、だからと言って売り上げのためにもっとビジネスを伸ばしたくはない。でも生活のため収益は必要。そんなところのバランスを、落とし所を見つける作業です」 そうこうしているうちに、台湾にやって来て7年が経った。元々は5年で日本に帰るという目標を立てていたという伊藤さんには、もう一つ、いつも心に留めていた目標があった。それは藤巻氏との約束、「ものになったら日本に帰って来てアウトプットをする」こと。ゼロからのスタートで、ここまでたどり着いた。ならば、日本に帰る時が来たのではないか。そう感じる瞬間を、伊藤さんは迎えた。 日本での拠点に京都を選んだのは、旅行で訪れた際に直感で気に入ったから。街の雰囲気、職人気質の人間が多い場所に、心惹かれるものがあり、Goodman RoasterはGoodman Roaster Kyotoとして、新たに日本の地にオープンすることとなった。 Goodman Roaster の焙煎 「資格や大会に全く興味はなく、”美味しい”というところに興味がある」と話す伊藤さんは、他のロースターとは異なるアプローチをしている。ロースターというと、焙煎技術を極めている職人、のような姿勢で焙煎を行う人が多く、素材の良し悪しが十分に重視されていないと伊藤さんは考える。むしろ、どんな素材であっても美味しく焙煎するのが腕の見せ所、というような部分すらあるのではと感じているという。 「僕は素材がとにかくまず重要だと考えています。今では焙煎の技術はコンピューターである程度管理できてしまう。だからその技術よりも、まず生豆の良し悪し、クオリティを嗅ぎ分けられる嗅覚と味覚を鍛える事が重要なんです。食べ物でも、素材が良いものに味付けはほとんど必要ないですよね。深煎りって、例えて言えば醤油を思いっきりかけるような事だと思っています。うちでは浅煎りに限定しているわけではないのですが、素材が良いものを選び、その良さを活かそうと思えば自然と浅煎りになるんです。特にフィルター用のコーヒーは絶対にいいものを仕入れている、という自負がある」、そう伊藤さんは言う。 Goodman Roasterで使用している焙煎機はディードリッヒ。台北では12kg、京都では5kgで焙煎を行なっている。「今のスペシャルティを焼くのに直火はあり得ない」と話す伊藤さんが特に心酔しているのが、エスプレッソブレンドを焙煎するときに発揮されるディードリッヒの本領だ。赤外線の力で、ボディ、クレマ共に素晴らしいものが焼けるのだと伊藤さんは目を輝かせる。 日本に帰ってきて感じること、これからのビジョン 「これはコペンハーゲンに行ったときに強く感じたんですが、普段の生活における心の豊かさと、コーヒーを飲む時間を楽しめる事とは繋がっていると思っています。豊かだからコーヒーが飲めるのか、コーヒーで心が豊かになるのか・・・、それはまだ答えの出ない問いですが、日本に帰って来て、『コーヒー飲んでる場合じゃないでしょ』、『コーヒー飲んでる時間はない』と言われてびっくりした事があって。ただコーヒーを飲む、その時間を楽しむと言う豊かさが失われているのではないか、そう思いました」と伊藤さん。 京都店ではまず1年間、一人で現場に立ち、お客様に接していくと決めている。少しでも多くの人に、リラックスしてコーヒーを味わう時間を持ってもらえるよう、生粋のエンターテイナーとして、京都に新しい風を吹かせよう、そう考えているという。 現場に全部の答えがある、と藤巻氏は言った。台湾で得たものを日本へ、そして日本での新しい体験をまた台湾へ。お客様を楽しませないと意味がない、をモットーに、ユニークなルーツを持つロースターとして、日本でもいよいよその名を轟かせていく事だろう。

Darestore (仙台) : 2019年12月#クラスパートナーロースター

次にご紹介する#クラスパートナーロースターは、仙台・青葉区のDarestore(デアストア)。メルボルンでオーストラリアのコーヒーカルチャーに触れ、誰もが日常的に、気軽に、美味しいコーヒーを楽しめるような文化を仙台にも根付かせたい、そんな想いからオープンしたカフェ・ロースター。10年間の準備期間を経て2017年にオープンしたDarestoreは、仙台という大きな街自体のコーヒー文化構想を牽引する存在だ。オーナーの寺澤さんに、お話を伺った。 Darestoreができるまで 現在35歳の寺澤さんが「カフェをやろう」と決めたのは、今から10年ほど前。元々は柔道整復師の専門学校を卒業し、接骨院で勤務していたという。 「専門学校時代から、暇ができればカフェに行っていました。カフェで時間を過ごせば過ごすほど、カフェという空間をいいなぁと思うようになりました。接骨院で働きながら、学会に出席したり、業界を代表するような人たちとお話したりする機会もあったのですが、そうすればするほど、本当にやりたい事について考えるようになって。カフェをやりたいな、という気持ちがどんどん強くなりました。そういう意味では、就職してからようやく本当にやりたい事が見つかったような気がします」と寺澤さんは話す。 退職してからは、日本各地を訪問し、コーヒーショップを巡った。その中で寺澤さんの心に残ったのが、仙台の人気店、バルミュゼットだった。「カフェをやりたいんです」、そうオーナーの川口さんに相談すると、川口さんは親身なアドバイスと共に、「海外を見てきた方がいい」、そう言ってくれたのだという。「その時新しい視点をもらいました。バルミュゼットではまずは研修のような形で教えてもらいながら働いて、その後スターバックスでも働きました。二つの職場を通して、まずはコーヒーへの知識、そしてカフェをやるにあたっての基本的な業務や現場を回す経験、さらにメンタル面での訓練ができました」寺澤さんは感謝を込めてそう振り返る。 その後、飲食店を経営する上で食に関する広い知見も必要だと考えた寺澤さんはフレンチレストランでの勤務を始める。オーナーシェフは、スイスのレストランがミシュランスターを獲得した時に勤めていたという腕利きの料理人で、職人技術に触れる良い経験になったという。その後一旦退職し、川口さんとヨーロッパ旅行に行った寺澤さん。世界が広がる中で出会った人々から、海外生活やワーキングホリデー、そしてメルボルンについての話などを聞く中で、次第にメルボルンへの憧れが強くなったという。早速貯金を始めるべく選んだ次の職場は、イタリアンのピッツェリア。そこでもまた興味深い出会いがあった。シェフはナポリで修業した日本人で、海外で生活した頃の話を楽しく聞かせてくれたのだという。フレンチやイタリアンといった職場で様々な味を学んだ経験は、今でもちょっとしたメニューを出すときや、なによりコーヒーの味わいを表現するのにも役に立っている。幅広い経験が育んだ表現力だ。後にワーキングホリデービザを取得し、当時お付き合いしていた方と共にオーストラリアへ。二人はのちに結婚することになる。計1年10か月の滞在期間中、タスマニアや数々のファームを巡った後に、メルボルンでバリスタとして1年ほど経験を積んだ。2016年5月に帰国し、半年後の2017年1月に、Darestoreがオープンした。 メルボルンでの経験 メルボルンのカフェでは、一日300-500杯ほどコーヒーが売れることも珍しくない。そんな忙しく活気に満ちた環境で、寺澤さんは大いに刺激を受け、バリスタとしても大きく成長した。メルボルンのカフェの特徴は、フードメニューが充実している事。その流れを汲んで、Darestoreでは今でもチーズクロワッサン、自家製のミートソースを使ったホットサンドや自家製のグラノーラなどを提供している。 オーストラリアでは、日本人のネットワークにも大いに助けられたという寺澤さん。バリスタとしての初めての現場は、現在PRANA CHAI JAPAN代表の野村さんが働いていたカフェ、Balmains Brighton。働きながら技術を吸収した。その後、現在ANY B&B+ COFFEE代表の満吉さんがヘッドバリスタを勤めていたAddict Food & Coffeeというカフェで勤め、それぞれの場所で充実した経験を積んだ。大きく世界へ広がった視点も、身につけた技術も、そして数々の素晴らしい出会いも、今へと繋がる大切な宝物だ。 石山さんとのパートナーシップ Darestoreを語る上で欠かせない人々のうちの一人が、共同経営者として立ち上げをつとめ、現在は焙煎を担当する石山さんだ。出会いは、寺澤さんがフレンチで働いていた頃。バルミュゼットで頻繁に行われていたカッピングに欠かさず参加しており、その場で知り合ったのが石山さんだった。石山さんは当時ネルソンコーヒーというコーヒーショップですでに10年ほど経験を積んでおり、ネルソンコーヒーが仙台駅前にコーヒースタンドをオープンした時には店に立ってコーヒーを淹れていた。そこへ寺澤さんが足しげく通うようになったのだ。 「メルボルンにいる時に、帰ったらお店をやろうと思っていて、どうしようかなと考えていた時にすぐに石山の顔が浮かびました。経験も技術もあるし、働いているのも見ていて、さらに自分とはまた違うタイプでもあるので、一緒にやったら合うだろうな、と思ったんです」と寺澤さんは話す。石山さんもちょうど独立を考えていた時期だったこともあり、打診を前向きに受け止めてくれたという。メルボルン滞在中からメッセンジャーなどでやり取りを続け、コンセプトなどの検討を進めた。 Darestoreのコンセプト 「メルボルンのカフェって、皆が日常的に使う場所で、朝早くから開いているんです。学校に行く前に親子で来たり、会社を抜け出してコーヒーを買いに来たり、そんな日常の色々なシーンで生活に溶け込んでいる。そんな場を仙台に作りたい、そういう気持ちがまずありました」と寺澤さんはDarestoreのコンセプトを説明する。 石山さんも、前職で「スペシャルティコーヒー」と言うと飲みに来た人が構えてしまう事があり、そのハードルを下げたいと考えていたのだという。バックグラウンドの異なる二人だが、人々が気軽に美味しいコーヒーを楽しめる場を提供する、そんな構想でしっかりとタッグを組む事ができた。 オープン当初、仙台には個人経営のカフェは他にもいくつかあったものの、存在感は大手チェーンの方がまだ強く、それらの立地の良さも手伝って客入りも比較にならなかったという。個人店はあくまでも「知っている人」、「好きな人」が立ち寄る場所。メルボルンで寺澤さんが目にしていたのは、小規模の個人店にはいつも人があふれ、チェーン店には観光客しかいないという真逆の環境だった。Darestoreの挑戦は、仙台という地で、個人店がもっと輝ける環境を整える事だ。できるだけ様々な客層に対応できるよう、まずは営業時間を朝7時からとし、カフェ営業終了後はバー営業として11時までオープンする形でスタートした。忙しい人も、好きな時間に来られるための工夫だ。「フードメニューも充実させました。メルボルンのカフェにはフードメニューが多くて、休憩、打ち合わせ、食事など様々なシチュエーションで使えるのも魅力です。オープンした頃は、いいな、と思ったものを全部取り入れてチャレンジしていました」、そう寺澤さんは忙しい日々を振り返る。やりたい事は尽きないが、スペースや自分たちの仕事量とのバランスも重要だ。調整を経て、2年目からは8時から18時までの営業とし、メニューもフードメインから徐々にコーヒーにフォーカスした内容に変化させている。 Darestoreがよりコーヒーに特化した店へと変化できたきっかけは、2019年の5月からチームに加わった八代さんの存在が大きかったという。メルボルンやベルリンでヘッドバリスタなどとして活躍し、計5年ほどの海外経験を積んだ彼の加入により、Darestoreはさらなるパワーアップを遂げた。 オープン当初からキッチンを切り盛りしていたのは、中学時代からパティシエを目指していたという奥様だ。彼女の作り出すお菓子やフードにはリピーターも多く、メルボルンスタイルのフードメニューなども特に話題を呼んだ。Darestoreをコーヒーショップとして発信する方向に切り替えてからは、その多彩な才能を活かし、パッケージデザインやソーシャルメディアでの発信を担当している。 Darestoreの焙煎 Darestoreで使用している焙煎機は、韓国メーカーのPROASTER。求めていたコストパフォーマンスとサイズ感に合うだけでなく、寺澤さんはメルボルンで、石山さんはアメリカでそれぞれ飲んで好印象を持ったコーヒーに使用されていた焙煎機ということで、白羽の矢が立った。Darestoreの味わい全てに通ずる方針は、「はっきりと個性が感じられるコーヒー、そして綺麗さ、甘さ、酸などのバランスが取れていること」。輸入業者については、産地との関わりを大切にしており、高品質の商品を扱っていることを基準に選んでいる。 コーヒーそれぞれのキャラクターが感じられる焙煎度合いを探し、スモーキーさや苦さが出ないように調整を重ねているというDarestoreの焙煎。焙煎度合いは浅煎りから中浅煎りまでに限っており、ラインナップは常時4−5種類、ローテーションは3ヶ月に1回ほど行う。個性が異なるコーヒーを揃え、選ぶ楽しみも増すように工夫しているのだという。その中でも、「コーヒー飲みたいな、と思った時に皆がイメージする味わいに近いバランス」で、一番落ち着く味だと感じるブラジルは一年を通して販売している。いつでも安心してほっと一息つける場所、そして楽しく新しい出会いもある場所。コーヒーのセレクションを聞いただけでも、Darestoreの居心地の良さが伝わってくる。 将来への展望 仙台のコーヒーカルチャーの特徴は?と尋ねると、まずは「カフェ同士の交流があること」と寺澤さんは言う。コーヒーカルチャーの発展には、横のつながりや業界全体の盛り上がりが欠かせない。力を合わせていける環境はコミュニティの大きな強みになるだろう。 消費者に関しても、特別、「スペシャルティコーヒー」として確立しているものはまだないけれど、Darestore一つ見ても、年代問わず様々な人々が思い思いにコーヒーを楽しむ様子には、これからの仙台のコーヒーシーンの行き先の明るさを感じるという。 「Darestoreの短期的な目標としては、焙煎所を作ったり、焙煎量も増やしていきたいと思っています。ただ、自分たちだけが大きくなっていくというよりは、もっとたくさんの人たちに美味しいコーヒーを飲んでもらって、仙台のマーケット自体を大きくして、全体として仙台のカフェやコーヒーの産業が栄えていくのが一番だと考えています。コーヒーは家で飲む人も多いですし、スペシャルティコーヒーを家で淹れる楽しさをもっと発信するために、ワークショップも開催しています」と寺澤さんは説明する。 同じ将来を見つめながら、スタッフがそれぞれに才能を開花させ、仙台の人々の暮らしに美味しいコーヒーを届け続けているDarestore。これからも仙台を代表する存在として、人々の生活に豊かな香りをもたらす事だろう。

AND COFFEE ROASTERS (熊本): 2018年2月 #クラスパートナーロースター

今月ご紹介する #kurasucoffee サブスクリプション提携ロースターは、熊本県のAND COFFEE ROASTERS。代表の山根さんに、お話を伺った。   山根さんがコーヒーと出会ったのは、ニューヨーク。19歳のころ、短期留学中だった山根さんはルームメイトを通してカフェやコーヒーの文化に魅了されたという。帰国後、カフェやロースターで働きたいと思い探すものの、自分がニューヨークで恋に落ちたコーヒーほど、心動かすものには出会えなかった。 そこで山根さんはレストランの調理場で働きながら、独学でコーヒーの知識を身に着けることに。市場調査のため、サンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨーク、シアトル、メルボルン、そしてシドニーを巡ってはサードウェーブ系のカフェを訪れ、自らの好みの味、自分の手で生み出したいと思うフレーバーを探っていった。     山根さんは東京出身。東京のコーヒー業界には、すでに先輩や後輩、友人などがあふれていた。そんな環境の中、自ら東京に出店し、競い合う立場になるよりも、どこか新しい場所でコーヒー文化を花開かせることに魅力を感じたという。 2011年、奥様の出身地である熊本に移住。規模が小さく、路面電車が走り、人がみな暖かい町。どこかメルボルンの住み心地の良さが思い出されるその場所に、山根さんは出店を決めた。当時熊本にはまだスペシャルティコーヒー専門店は存在せず、そもそも豆販売やテイクアウトも含めコーヒー消費量が全国でもワーストに入る熊本でコーヒー文化の影は薄かった。 「熊本の人のライフスタイルって、東京と全然違う。急いでる人がいないんです」と話す山根さん。朝、カフェに慌ただしく立ち寄ってはコーヒーを片手に急いで出勤する人、カフェでの仕事の打ち合わせなど、東京で当たり前のように目にする、ペースの速い生活。熊本では、時間はもう少しゆったりと流れ、打ち合わせのために外に出るといった事もあまりないのだという。 しかし2013年のオープン以来、スペシャルティコーヒーは熊本の人々にも少しずつ愛され始めている。浅煎りを楽しんでくれる人、それまではコーヒーが飲めなかったが浅煎りを気に入ってコーヒーに夢中になった人など、人々にそれぞれのスペシャルティコーヒーとの出会いのきっかけを提供できている事を嬉しく感じている。   2016年にはアンドコーヒーブリュワーズ/AND COFFEE BREWERSという、抽出にフォーカスした店舗もオープン。様々な抽出方法や器具、豆の種類やレシピによって生まれる味わいの違いを積極的に紹介・提案するというコンセプトだ。 今後は3月末に東京・日比谷に出店、福岡への出店も検討するなど勢いを見せるAND COFFEE ROASTERS。店舗展開だけでなく、人材育成にも意欲を見せている。「今のスタッフの半分以上が県外から集まってくれました。熊本でももっとバリスタの職業としての地位、価値を上げて、コーヒーをやりたいという人口を増やしたいです」と話す山根さんの願いは、熊本で確かに息づき始めたコーヒー文化の灯を絶やさず、育てていくことだ。   最近、Kurasuのスタッフの間でもポジティブな話題となっていたのが、AND COFFEE ROASTERSのフレーバーが変化したことだ。聞けば焙煎機を変えたのだという。以前はフジローヤルの3㎏を使用しており、窯が比較的薄く熱の上昇・下降のスピードが速い特徴を生かし、浅煎りのギリギリのところを狙い素早く焙煎することで、甘さよりもフレーバーや生き生きとした明るい酸を表現していた。 しかしその後、焙煎機を窯が厚く蓄熱に優れているプロバットに変えたことで、じっくりと中まで火を通し、時間をかけて甘さを引き出す焙煎へと変化したのだという。   生豆を購入するのは4社から。東京に出向き、産地別にカッピングを行いその都度仕入れるものを決めるのだという。クリーンカップ、酸の明るさ、そして産地の個性。焙煎のフォーカスの変化を経て、AND COFFEE ROASTERSならではのフレーバーはより一層輝いている。   最後に、「山根さんにとっての美味しいコーヒーとは?」と問いかけると、少し意外な答えが返ってきた。「気づいたら飲み終わっているのが一番」なのだという。 美味しいコーヒーを探す作業であるカッピングでは、当然ながら味わいの細部に至るまでを感じ取り、酸や甘さを吟味する。時には鳥肌が立つほど感動することもあるという。しかし山根さんにとって、コーヒーは同時に、「あくまでも日常的な飲み物」。   「コーヒーって、総称ですよね。音楽、みたいに。その中に、ジャズ、ロックと種類がある。コーヒーも同じで、色々なフレーバー、例えばフルーツに例えられるような色とりどりのフレーバーが、お客さんの頭の中に浮かぶような、その人の『コーヒー』の種類を増やしたい、そう思っています」と山根さんは言う。 「まあ、あんまり気にしないで飲んでほしいんですけどね」と、やや照れ隠しのようにも聞こえる言葉で締めくくった山根さん。その姿からは、既存のものにとらわれず自分の求める味を追求し続けてきたコーヒーへの愛情と、その深さゆえに、スペシャルティコーヒーをただ一過性のものや特別な存在にするのではなく、人々の日常をもっと豊かに暖めるような存在であってほしいと願う、そんな想いを感じた。  

Beyond Coffee Roaster ゲストバリスタ + ワークショップ at Kurasu Kyoto

1月8日Kurasu Kyotoにて、神戸のBeyond Coffee Roasters代表である文さんをお呼びし、ゲストバリスタとワークショップを行っていただきました。 11月よりKurasu KyotoそしてSingapore店でも豆を取り扱わせていただいているBeyond Coffee Roastersの焙煎は、浅煎りから深入りまで様々でありながら、それぞれのコーヒーのポテンシャルが最大限に生かされている素晴らしいもので、国内外で大変好評を得ています。文さんのコーヒーに対しての探究心、知識の深さはいつもKurasuのインスピレーション。今回はお越しいただき本当に光栄でした。 ゲストバリスタでは Ethiopia Gesha Village の貴重な豆を含め4種類をHario V60で丁寧にドリップしていただき、3時間で30杯以上をお客様に振舞っていただきました。普段Beyond CoffeeをKurasuで飲まれているお客様もいらっしゃいましたが、実際焙煎している方の抽出方法や、コーヒーとそのフレーバーに対しての思いを直接聞けるチャンスとあり大変盛り上がりました。 ワークショップは微粉をテーマにした少しマニアックなもの。 Kruveという、挽いたコーヒー豆を目的の粒度に均一にするためのシフター(ふるい)を使い、微粉がある場合とない場合とでどういった味の違いが感じられるのかを検証。 また、浅煎りのコーヒー豆と深煎りのコーヒー豆とでもシフターの効果の違いをカッピングとハンドドリップを通して味わいました。 先月Kurasuが主催したBrewers Tournamentのジャッジとしての文さんの体験談も交えながら、ロースターとして、また抽出する側として、様々な角度から微粉を考える非常に興味深いディスカッションも生まれました。 普段、スペシャルティコーヒー専門店でもなかなか見かける機会の少ないKruveを使い、その微妙(絶妙?)な効果の違いを体感できた貴重なワークショップとなりました。 文さん、お忙しい中お越し下さり本当にありがとうございました! Facebook や Instagram でKurasuをフォローして、最新のイベント情報をゲットしましょう! Beyond Coffee Roaster のコーヒー豆をKurasuオンラインストアで購入する  

Passage Coffee (東京) : 2017年10月 #クラスパートナーロースター

次にご紹介する#クラスパートナーロースターは、東京・田町のPassage Coffee。   三田通り沿いにある店舗の前に立てば、視線のまっすぐ先に東京タワーが見える。大学があり、オフィス街であり、また観光地でもあるという土地柄、日常と非日常がいそがしく行き交うこの場所では、人通りが途切れることはない。 店内は明るく、木材で統一された内装と、交差するいくつもの直線で構成されていながら暖かみのある空間が印象的だ。カフェではエアロプレスをはじめとした器具や、常時5種類ほどが揃う自家焙煎コーヒー豆も購入できる。   朝一番においしいコーヒーを飲んで、一日のエネルギーにしてほしい―そんな思いを込め、平日は朝7時半、週末は9時にオープンするPassage Coffee。2014年ワールドエアロプレスチャンピオンシップ優勝という輝かしい経歴を持ち、店主として人気店を切り盛りする佐々木さんに、お話を伺った。       コーヒーとの歩み 『初日に、あ、これで飯食っていこう、と』   幼いころからカフェオレを好んで飲んでいたという佐々木さんが、本格的にコーヒーの世界に足を踏み入れたのは大学2年生の時だ。アルバイトとして採用された福岡のスターバックスで、勤務初日、「あ、これで飯食っていこう」、そう思ったという。スターバックスでは、アルバイトにも社員同様丁寧な研修が行われる。そのテイスティングでコーヒーの味わいの幅広さに感動を覚え、就職するなら絶対にコーヒー業界にしよう、と心に決めた。20歳の時だった。   卒業後ドトールに入社し、東京へと引っ越した。ドトールでは2年間店舗勤務で店長の業務をこなし、主にカフェの経営面、ビジネスマネジメントを大いに学んだ。そうして順調にキャリアを積んでいた佐々木さんだが、彼の頭の中にはすでに次のステージへの構想が浮かんでいた。   さかのぼって大学4年の頃、バリスタチャンピオンシップ観戦のため東京を訪れた佐々木さんは、ポールバセット新宿店に足を運んだ。そこで飲んだカプチーノ、スタイリッシュな空間の余韻は福岡に帰ってからも頭から離れなかったという。その記憶は、ドトールで忙しく働きながらも、また新鮮に思い出された。接客、マネジメントと、自分にとって必要なステップは踏んできた。ここへ来て、技術をしっかりと身に着けたいという気持ちがいよいよ強くなってきたのだ。   当時本格的にエスプレッソを扱っているところといえば、デルソーレ、ポールバセットを含めほんの3店ほど。その中で特にポールバセットはバリスタの登竜門のような存在であり、自分の技術を伸ばすなら絶対にここだ、そう感じたという。   その後アルバイトとしてポールバセットに採用され、更にセガフレードなど2つのカフェでのアルバイトを掛け持ちする傍ら、専門学校へも通い、1年間のバリスタ養成コースを修了した。仕事ぶりが認められ、ポールバセットで無事社員として登用された佐々木さんは6年半の間、新宿店を支える大きな存在として活躍することになる。   ポールバセットでは、バリスタとなり実際にマシンを触ることができるようになるまでに長い下積みのステップがある。バリスタになるには、コーヒーの知識、カッピングを含む味覚の試験、スチームの技術などの審査に合格する必要がある。厳しく長い下積みと言えば、少々古い体質のようにも聞こえるが、半端な気持ちで臨んではいけない仕事であるということ、そして、基礎ができていなければ美味しいエスプレッソなど作ることができないという意味で、順当であるとも思う、そう佐々木さんは話す。   無事にバリスタとなった佐々木さんは、ポールバセットの渋谷進出後、新宿店をほぼ一任され、時間は忙しくあっという間に過ぎていった。       エアロプレスチャンピオンシップへの挑戦、そして世界へ 『負けてすごく悔しかった』   初めてのエアロプレスチャンピオンシップへの挑戦はある日突然訪れた。上司が佐々木さんの名前で参加申し込みをしたというのだ。それまでほとんど触ったことがなかったエアロプレス。戸惑いながらも、大会までの2か月間特訓を重ねることにした。   初めてエアロプレスと向き合い、抽出してみた感想は「ストライクゾーンが広い道具」。手探りの一度目から、ある程度おいしいコーヒーが抽出できたのだ。しかし現実はやはりそう甘くはなく、大会では2回戦で敗退。 突然訪れた機会だったとはいえ、負けた悔しさは強く、来年必ず再出場しよう、そう心に決めた。   ポールバセットの看板商品はあくまでも世界一位を獲得したエスプレッソ。 しかし決意を固めた佐々木さんは、店舗ではまだメニューになかったエアロプレスをメニューに追加するよう働きかけ、自分の時間も使い細々とではあるが練習を重ねた。   「エアロプレスって、ある程度のところまでは簡単なんです。でも、完璧な一杯を追求しようとすると、味に影響する要素が多すぎる」と佐々木さんは説明する。エスプレッソと同じく気圧で抽出する手法は、よく言えば味づくりの幅が広く、様々な味が出せる。しかしその逆を言えば、あまりに幅広く様々な味を出せるため、照準を絞るのが難しく、また外してしまう可能性も大きいというのだ。   翌年の大会には、ティムウェンデルボーなどを参考に世界でスタンダードとされる味の取り方を研究し臨んだ。求める味を模索する中で新たに視野に入った世界での味の流れ、酸味を押し出すだけではなく、クリアでなければ表現できない産地個性など、それまで日本のコーヒーしか知らなかった自分の中での価値観が世界に向けて変わった瞬間、それが最大の転換期だったという。そして挑戦した二度目の大会で優勝、更に2か月後に控えていた世界大会でも、見事に優勝を果たすことになる。   前日まで調整を尽くした一杯を出し、その後も微調整を繰り返したと、佐々木さんは緊張感あふれる当日の様子を話してくれた。その時使用したのはボリビア。甘味が強く、ダークチョコレートを感じさせる豆だ。ただ淹れただけではフルーティーさはなく、その果実味を引き出し明るい酸と甘味のバランスを取ることで、ユニークさを表現し、評価につながった。 自分がおいしいと思うコーヒーが、世界で一番のコーヒーとマッチした瞬間だった。     焙煎の始まり...

Kurasuロースターストーリーズ: 大山崎 Coffee Roasters / 京都

Kurasuが日本各地の焙煎所とのプロジェクトを始めたころから、変わらない想いがあります。コーヒー豆を売るだけではなく、彼らのストーリーも紹介したい。 日本には、100gという少量から、週数百キロの量を焙煎する所まで、幅広く個性豊かな焙煎所が多く存在します。私達にとっては、どの焙煎所も規模などの数字だけでは比べられない、それぞれのユニークな魅力にあふれています。実際に焙煎所を訪問して聞かせていただく彼らのストーリーには、一杯のコーヒーの後ろに広がるそれまでの試行錯誤、思いがけない出会いや人間性がたっぷりつまっているのです。 お話を聞く時の素晴らしい体験、その感覚をどうにかしてもっと皆様に感じていただきたい、そう考え、ショートムービーが出来上がりました。日本の焙煎所をこのような形で紹介するのはKurasuが初めて。その場で、ロースターさんと、焙煎機の音を聞きながら実際におしゃべりしているような、そんな空気を感じていただけることを願っています。 記念すべき1つ目は、京都・大山崎 Coffee Roastersの中村夫妻に焙煎所をご紹介していただきました。お二人のマイクロロースティングへのアプローチ、地元のコミュニティとの深いつながり、スペシャルティコーヒーと親しみやすさとの絶妙なバランス、そして何よりも、夫妻の人生への姿勢は、私達が憧れてやまない素晴らしいスタイルです。 お二人の言葉で語られるストーリーを、お楽しみください。   大山崎COFFEE ROASTERS oyamazakicoffee.strikingly.com Kurasu コーヒー定期購買 jp.kurasu.kyoto/subscription    

Townsquare Coffee Roasters (福岡: 2017年9月 #クラスパートナーロースター

次にご紹介する#kurasucoffee サブスクリプション提携ロースターは、福岡のTownsquare Coffee Roasters。コーヒーカルチャーの成長著しい福岡でもひときわ目を引くスペシャルティコーヒー専門店だ。その中核を担う井手さんにお話を伺った。 井手さんはどのようにコーヒーに関わる道に入られたのでしょうか? 昔はパティシエとして働いていました。元々コーヒーは飲めなかったのですが、仕事でサイフォンを扱う機会があり、それをきっかけに飲めるようになりました。私自身の業界への入り口はラテアートで、これができるようになったら格好いいなと思って始めました。その後Townsquareで焙煎する事になって、コーヒー豆への興味がより深まり、コーヒー自体をよりおいしくできたらいいなと思うようになりました。   Townsquare Coffee Roastersについて教えてください。 今年の10月に7周年を迎え、他にもコーヒー関係の店、和食レストランなどを系列店として持つグループ会社を母体としています。オープン当初からスペシャルティコーヒーを専門として扱い、系列レストランから引き抜いたシェフによるフードやカリフォルニア出身のDavid Ockey氏の作る本場のカップケーキなど、本格的な食事も提供しています。初代の店長は現在COFFEE COUNTYを切り盛りされている森さんで、スペシャルティコーヒーを福岡に広めようと完全熱風式のペトロンチーニを導入し焙煎を開始しました。 当店ではラテアートも行っていて、コーヒー自体の味わいを追求するスタイルが多い福岡で少し変わったものを提供できていると思います。卸売りや、カフェのセットアップのお手伝い、技術提供などもしています。卸先以外にトレーニング依頼を受けることも多いです。 自宅でコーヒーを淹れるライフスタイルも推進していて、カフェでも幅広い種類の器具の販売スペースを設けています。   お店としてラテアートを始めたのはいつ頃ですか? 私がここで働き始めたのは4年ほど前ですが、その頃にはすでにラテアートを積極的に行っていました。個人的にはどちらかというとコーヒー自体のおいしさを伝えたいと考えているのですが、ラテアートをきっかけとしてコーヒーに興味を持っていただいたり、コーヒーを好きになっていただくのも素敵だなと思います。   カフェ設立・技術サポートと、ラテアートにも焦点を当てたスタイルはTownsquare Coffee Roastersさんならではのものとして注目を浴びていますね。 3年ほど前に福岡を訪問したのですが、その時と比べてカフェ、ロースターが飛躍的に増えているという印象を受けました。5年前のオープン当初、現在とはかなり環境が異なっていると思いますが、お客様の反応はどのようなものでしたか? そうですね、初めのころは来店してくださる方の数も少なかったですが、ずっとやっていく、ということに意味があるのかなと思っています。「ここでコーヒーを飲んで以来、他のところでは飲めなくなった」というお言葉もよくいただきます。少しでも多くの方に知っていただく事が大切だと思っているので、いろいろなイベントに参加したり、積極的にセミナーを開催するなど、常に発信し続けることを心がけています。当店の地域密着型という姿勢から、お客様は地元の方が多いのですが、さらに他のエリアからも参加・交流していただけるよう、様々なセミナーも開催しています。 カッピングのセミナーも開催していて、年に一度大規模なものを主催しています。前回は九州のロースターのコーヒー豆を集め、さらに東京などからお客様が持ち寄ってくださったものも含め全部で25、6種類を皆様にカッピングしていただくことができました。福岡をはじめ、他のロースターさん方と良い関係も育てていけていると感じています。 8月には同じ福岡にあるステレオコーヒーさんで毎月一度のカッピングを開催し、それも今回で5回目となりました。その他にもプロのカメラマンを講師として迎え、コーヒーとケーキを被写体としたミニワークショップも実施し、さらに9月にはドリップの初級セミナーも予定しています。     Townsquare Coffee Roastersの焙煎について教えてください。 オープン当初から焙煎は浅煎りをメインとして、ほぼ毎日焙煎しており、常に20種類前後の豆を取り揃えています。 焙煎に使用しているのは九州での導入が初となる「Petroncini社」製熱風式焙煎機で、独自の焙煎理論と技術により厳選した素材の持ち味を最大限引き出しています。焙煎後は欠かさずカッピングによる品質管理を行い、さらにその後も定期的にカッピングを行うことで、時間経過による味わい・品質の変化にも目を光らせ管理しています。 店頭では、本日のコーヒーをまず試飲していただき、その後その味わいを軸としてお好みの味を表現していただき、お客様にぴったりのコーヒーをご紹介できるような接客を行っています。   今後の展望について教えてください。 さらなる焙煎技術の向上、ラテアートも大切にしながら、お客様のフォーカスがそればかりにならないような、バランスの取れた商品のご紹介、チームの形が変わっても必ずスタッフ皆がおいしく抽出できるような体制を整えること、が主でしょうか。 今後はさらにコーヒーに特化していく予定です。      

27 COFFEE ROASTERS (神奈川) : 2017年8月 #クラスパートナーロースター

次にご紹介する#kurasucoffee サブスクリプション提携ロースターは、神奈川県藤沢市、辻堂に位置する27 COFFEE ROASTERS。神奈川県を代表するスペシャルティーコーヒーロースターになるまでの20年間の歩みについて、代表の葛西さんにお話を伺いました。   コーヒーの世界に入ったきかっけ、今までの道のりを教えてください。 実は店を始めてもう20年になります。1997年に自家焙煎挽き売りと喫茶の店「自家焙煎かさい珈琲」として始めました。ちょうどシアトル系の大型チェーンショップが開店したタイミングでしたが、当時はスペシャルティコーヒーという言葉も出回っていませんでした。もともと海が好きで辻堂に住んでいて、会社勤めをしていたころは東京まで通勤していたのですが、東京も通勤も好きではなくて、ここで仕事をしながら住めたらいいなと考えたのが開業のきっかけです。ちょうどその頃に実家の工場が廃業することになり、商売をやってみないかと言ってもらいました。両親は宮城の出身で、コーヒー業者に勤めていた親戚がいたことから話が進んで、勢いでお店をオープンすることになりました。 特にコーヒー好きだったというわけでもなく、どこかで修行したり、コーヒーに関わる環境で勤務した経験もまったくありませんでした。現在のようなオープンな情報もありませんでしたので、初めは何をしたらいいのかすべてが手探りでした。皆はなぜコーヒーを美味しいと思うのだろう?そんな疑問から始めたぐらいですから、良くも悪くも品質判断の基準が定まっていなかったので、逆に自分の仕事やお客さんが求めているものを客観的に見ることができたかも知れません。好きすぎるあまり自分の思いを押し付けてしまうことなどもなく、一方通行にならないようなバランスも取れていた部分があったかも知れません。 その後2003年にスペシャルティコーヒーに出会い、それまでの昔ながらの喫茶経営からスペシャルティコーヒーにフォーカスしたお店の形に自然と少しずつ変化していきました。そして2012年、コーヒー豆販売と新しい焙煎機を導入した「27 COFFEE ROASTERS」としてフルリニューアルオープンしました。現在では現地の生産者や農協、輸出業者とのつながりを大切にし、品質重視の姿勢でセミナーやカッピングなども行いながら、おいしいコーヒーを伝える、「コーヒー嫌いだった人に振り向いてもらえるような1杯」を作っています。     コーヒーとの関係の転換期はどのようにして訪れましたか? 喫茶店では、凝り性なこともありますし、仕事は一生懸命やっていました。ただ、方向性が定まらないまま色々やってしまっていたんですね。当初はイートインもやっていました。「豆だけで売り上げを立てる事は難しいだろう」という思い込みもあり、お菓子を置いてみたり、フードメニューを変えてみたり…色々手を広げすぎてしまったんです。売り上げも安定していませんでしたし、自分自身店の中にこもって狭い世界にいたと思います。 そんな時、2003年に日本にSCAJが設立されて、スペシャルティコーヒーが入ってくるようになりました。そこでスペシャルティコーヒーのカッピングセミナーがあったので参加して、今まで飲んだことのない味にとにかくびっくりしたんです。これがコーヒーなのか!という驚きを感じたのを今でも鮮明に覚えています。その時は、すぐにそれがいいか悪いかはわからなかったのですが、とにかく今まで自分が飲んできたものと全然違った。そこから今まで何となく「スペシャルティコーヒー」と言われて買っていたものは何だったのだろう、本当にいいコーヒーというのはどうやったら買えるのだろうか、と考え始め、ぐいぐいとスペシャルティコーヒーに引き込まれていきました。 当時はカッピングもあまり行われておらず、情報を得るには本などで勉強していた程度で、海外からの情報や同業者との交流もほとんどありませんでした。しかしスペシャルティコーヒーに衝撃を受けて、これをちゃんとやれば道が開けるんじゃないか、そう直感したんです。それからはできる限り外に出て、セミナーにも参加し勉強しました。 そうするうちに、店の方向性も、コーヒーへの姿勢も自然と変わってきました。元々はカウンターがあって、ドリップやサイフォンがあって、喫煙もOKのいわゆる昔ながらの喫茶店だったのですが、まずは禁煙にして、フードの提供もやめて、と、徐々に変えていき、5年前には完全にリニューアルし、かさい珈琲から27 COFFEE ROASTERSへと名前も変えました。   大きな変化ですね。お客さんの反応はどうでしたか?   たくさんの人に反対されましたし、最初の反応は決して良くなかったです。正直な感想や思うところを言ってくれる人もいれば、何も言わずに来なくなってしまうお客さんもいました。ですが、それまで喫茶店をやっていたころは(これをずっとやっていくのかな)という不安があったところ、これなら安心して、信じてやり続けられるという風に思えたのがスペシャルティコーヒーだったんです。品質は嘘をつかない、そこをきちんと守っていればずっとやっていけると思って続けました。   新しいお客さんももちろん増えて、同じ価値観やコーヒーに対する興味をもってきてくれるお客さんが集まるようになりました。基本的には地元の人が多いですが、東京や、遠方からのお客さんも徐々に増えていっています。       27 COFFEE ROASTERSのコンセプトはなんですか?   とにかくシンプルに、10年、20年経っても同じようにやっていけるようなものを目指して作りました。半分は焙煎所、半分は抽出する場所として、この店に来れば一通り体験できるという場所にしたかったんです。余計なものを置かず、コーヒーだけに集中できるような店にしました。お客様の9割が豆を買われる方々なので、店内でドリップするフィルターにはV60などあまりマニアックでない器具を使い、豆を買ってくださったお客さんも同じように淹れられるようにしています。   27 COFFEE ROASTERS の焙煎、コーヒーについて教えてください。   20年前店を始めたころには誰も焙煎を教えてくれませんでした。コーヒー好きであれば自分のいきつけや好みの店がいくつもあって、そこでノウハウを教えてもらうなりやり方があったのでしょうが、そういうものがない、ゼロの状態からスタートしなければならず苦労しました。今はむしろ情報が多すぎるための苦労もあると思いますが、当時は原料の豆を仕入れるにもルートが限られていて、問屋さんにもあまり良いものが揃っていないという環境でした。その後共同購入グループ「C-COOP」に参加し、同じような境遇の仲間が集まる中でお互いに焙煎を学び、海外にも目を向けるようになり、一緒にアメリカなどの海外のロースターを訪問見学させてもらったりもして、徐々に経験を積んでいくことができました。         産地にも興味があったので、ニカラグアなどにも行きました。栽培しているのを実際に目の当たりにすると、生産者達の思いも汲んで、ちゃんと売りたいという気持ちが強まりましたし、COEなどの審査会にも行ってみたいと思うようになりました。それから審査員として参加すべくカッピングのスキルなども学び、2008年に初めてCOE審査会にオブザーバー参加しました。それからは毎年中米を中心に、つながりができている産地に行っていますが、オーストラリアやアメリカと比べると、産地とのつながりの歴史や深み、購入量には日本との歴然とした差を感じさせられます。日本は大手チェーンなどが主導する流れがまだまだ強く、個人ロースターはすぐに買い負けてしまうんです。その差を乗り越えていかなければ良いものは手に入れられません。すぐに解決するのは難しいでしょうが、日本なりのやり方があると考え、同じ目線で仕事のできる比較的小規模な生産者が多い中米とのつながりを構築しています。 現在、焙煎は自分とスタッフの4人チームでやっています。焙煎機にはローリングスマートロースター35kgを使用し、スペシャルティコーヒーの持つ爽やかな酸味や透明感、スムースな甘さを最大限に引き出す努力をしています。コーヒー豆の外側に過度なダメージを与えずに、豆の芯にしっかり熱を与えて風味を発達させています。 27 COFFEE ROASTERSでは、それぞれのコーヒーが持つ素材の味わい、長所を素直に表現し、味わっていただく事を大切にしています。...