次にご紹介する#クラスパートナーロースターは、京都・丸太町に店を構えるSTYLE COFFEE (スタイルコーヒー)。京都御所から鴨川に向かってひとつ、ふたつと道を渡っていった通り沿いに、今年4月にオープンしたコーヒースタンドだ。
オーナーの黒須さんは、メルボルンで経験を積み、帰国後はWEEKENDERS COFFEEで抽出、センサリー、そして焙煎のサポートと腕を磨いた経歴を持つ。コーヒーの味わいの要素や時間経過による変化をグラフ形式にして視覚化したり、スペシャルティ―コーヒーのフレーバーを構成するものを分析し、スパイスやフルーツなどコーヒー以外の食材でその味わいを構築する試み、また新しいスタイルのアイスコーヒー、またペアリングなど実験的な試みを、独自のアプローチで伝えている姿勢が印象的なロースターだ。現在のスタイルに至るまでの経緯、そしてその道のりがどう始まってどこへ向かうのかー黒須さんにお話を伺った。
コーヒーとの出会い
「コーヒーへの興味は、まずはカフェという空間からはじまった」と黒須さんは説明する。元々アメリカ西海岸のカルチャーに心惹かれており、サンフランシスコやロサンゼルスなどを度々訪れては、リチュアル・コーヒー・ロースターズやフォーバレルコーヒーなどのカフェにも立ち寄るようになったという。
「人が行き交う空間や、コミュニティのあり方に惹かれて、そんなカフェという空間からつながってコーヒーが気になるようになりました。それからカフェで働くようになって、段々とテクニカルな部分、抽出や焙煎に興味を持つようになりました」、そう黒須さんは振り返る。
昔ながらの喫茶店やエスプレッソバーなど、関東を中心に様々なカフェで経験を積み始めた黒須さん。しかし期待していたほどコーヒーを集中して作る機会は得られず、環境を変えたい、スキルをもっと伸ばしたいと思うようになった。そんな折、オーストラリア、特にメルボルンでのコーヒーカルチャーの存在感、そしてその活発さを知る。「メルボルンに行けばどうにかなるのではないか」ーそんな憧れが黒須さんの胸に芽生えた。
そうとなったら早速行動にうつすのが黒須さんの実行力だ。ワーキングホリデービザを手にメルボルンに降り立った黒須さんは、履歴書を持参してあらゆるカフェを訪れ、3日目にはすでに働き口を決めることができた。
「オーストラリアで飲んで一番引っかかったコーヒーは、プラウドメアリーで飲んだパナマゲシャのエスプレッソです。信じられないほどのフレーバーと酸の鮮やかさに、ブラックコーヒーでこんなことができるんだ、すごい!と衝撃を受けたのを覚えています」、そう黒須さんは話す。
その驚きはオーストラリアのコーヒーカルチャーへの憧れと期待をより一層強くし、滞在中に目一杯色々な豆を使い、色々なマシンを使い、たくさん友達を作りたい、そんな目標を胸に、黒須さんはオーストラリアでの生活をスタートさせた。
メルボルンでは、数か所のカフェで同時に働き、それぞれの動線やオペレーション、トップバリスタによる特徴の違いなどを多面的に学んだ。特にその内の一つ、一日に800杯近くサーブする規模のカフェでは、オーストラリアの人々の生活の中でのコーヒーの存在の大きさを感じたという。エスプレッソを作る人、ミルクをスチームする人、とフローが整然と分けられていたのも印象的だった。「コーヒーがよく飲まれているオーストラリアで、さらにこの規模になると、日々の業務の中でこなせる量がまず違うのと、スピード感も求められる環境で安定した技術も身につきました」と黒須さんは当時を振り返る。
最終的には、ヘッドバリスタを務めるまでに技術を磨き、活躍した黒須さん。その後帰国するタイミングで、滞在中に友人を介して知り合ったWEEKENDERS COFFEEの金子さんから連絡を受け、富小路の店舗を担当し、さらに金子さんの補助として焙煎にも携わることとなった。黒須さんの、日本でのスペシャルティーコーヒーの旅路の始まりだ。
独立・STYLE COFFEEの始まり
WEEKENDERS COFFEEで二年半ほど働いた黒須さんだが、次第にもっと焙煎にフォーカスしたい、という思いが育ち始めた。「独立自体がしたかったという訳ではなかったです。意見はとても尊重していただいていたけれど、自分でプロファイルを決めたり、自分の責任で豆の選定などをやるようにならなければ、責任がない中で続けていてもスキルや考え方の伸び代に限界がある、そう感じるようになったんです」と黒須さんは当時の思いを語る。
その後半年ほどの準備期間を経て、黒須さんはSTYLE COFFEEをオープンした。名前の由来は、尊敬するスノーボードの選手、ダニー・デイヴィス氏の愛称である「ミスター・スタイル」。派手なトリックで魅せる選手が多い中で、彼はトリックのつなぎや組み合わせなどの見えない部分に力を注ぐ独特のスタイルからそう呼ばれているのだという。自分も彼のように、抽出技術やカフェの空間、提供するサービスなど、目に見えにくい部分を意識してやっていきたい、そう考えこの名前をつけた。
黒須さんのコーヒーへのアプローチ
カッピング一つとっても、様々な人々が異なる方法で味わいを取り出すことに気づき、例えばワインソムリエの酸の取り方を参考にするという黒須さん。一つ一つの行為の持つ意味、そしてその要素を一旦分解しては部品ごとにためつすがめつ眺めてみるような黒須さんの姿勢はあらゆる場面で見られる。
「豆に合わせたことはすべてやっていきたい」と話す黒須さんの焙煎のモットーは、豆の良さが引き立つ焙煎をする事。尊敬するMarket Lane Coffeeの石渡さんの「コーヒーの味がしないコーヒーを作るのがいいロースター」という言葉を胸に、豆の持つ様々なフレーバーを丁寧に拾い上げていく。
STYLE COFFEEでは常時3、4種類の産地の豆を用意し、焙煎は西宮にあるDCSでローリングの15kgを借りて行なっている。ゆくゆくは同じローリングの7kgを所有したいと考えている黒須さんは、より一層焙煎に打ち込んでゆくための準備に余念がない。「カッピングには特に重きを置いてトレーニングしています。とにかく回数をこなす事、技術のある色々な人々から学ぶ事。面白いのが、ワインのソムリエや料理人、パティシエなどはまた違った酸の取り方をするんです。彼らからの意見も参考にして、カッピングの技術向上に活かしています」、そう話す黒須さんからは、尽きることのないコーヒーへの興味と情熱が感じられた。
これからのSTYLE COFFEE
「自分が、何でかな?と思ったことを、人を巻き込んでやってみて、それにお客さんからレスポンスをもらって、それが動いて行って昇華していく、その流れが今は楽しくて。より巻き込んで、よりテクニカルに、そんな方向でやっていきたいです」と黒須さんは顔を輝かせる。
今一番嬉しいことは、「何かを投げたら答えが返ってくる」事だと話す黒須さん。普段は一人きりで切り盛りしている店で、静かな時間があれば考えを巡らせていると、不思議とその分野に詳しい人がやって来ることがあるのだという。人との縁の不思議さと大切さを感じる瞬間だ。
京都にもここ最近でぐっとスペシャルティーコーヒーの店が増えた。それに伴って、コーヒーシーンにも変化が見られると黒須さんは感じている。
「お客さんがそれぞれいくつものカフェを“ホッピング”して、東京のようにその日の予定や用途によってカフェを使い分けている。コーヒー好き同士でSNSで繋がったりして、コミュニティとして力がついてきているなと思います」
その手応えを物にし、一過性のファッションとしてではないコーヒーカルチャーを育てるのが黒須さんの今後の目標だ。いつか、「STYLE COFFEEのコーヒーを飲んで興味を持った」と言われるような、誰かにとってのきっかけとなるような環境や場の提供、様々な化学反応を起こす事で生まれる物、そんな瞬間を掴むため、黒須さんはこれからも自分のスタイルを見失わず、新しい風を生み出していく。
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