今月ご紹介する♯クラスパートナーロースターは、静岡のETHICUS coffee roasters(エートスコーヒーロースターズ)。静岡鉄道の日吉町駅を降りてすぐ目の前、大通りに入る角にある店舗には、看板がない。現代美術のギャラリーと化学実験室があいまったようなミニマリスティックで落ち着いた空間で、実際にアート作品の展示・販売も行っている。つい先月、Kurasuをゲストバリスタとしてもお招きいただき、実際にコーヒーのサーブを通してETHICUS coffee roastersの創り出す空間を体験することができた。オーナー、ロースターの山崎さんにお話を伺った。
─ コーヒーの世界に入られた経緯や、コーヒーを好きになったきっかけとは?
父が事業をしていたので、中学生くらいまでは漠然とそれを継ぐ心づもりでいました。ですが、どこかには独立志向があったのだと思います。それは今でも変わらず、好きなものは自分で作るという意識で生きています。
コーヒーのことを何も知らなかった頃、友人が起業してカフェをしたいと話してくれました。それがとても魅力的に感じられ、一緒にやろう、という話になりました。結局その計画は頓挫することになるのですが、まずは経験を積むべく、半年間という期限を決めて、セガフレード・ザネッティに入社しました。それがコーヒーの世界に入ったきっかけです。
セガフレードでは結果的に10年間お世話になり、チーフバリスタ、スーパーバイザーまで経験させていただきました。充実した毎日を過ごしていたので、そのままでも楽しい人生を送れたとは思いますが、その頃に清澄白河にあるARISE coffee roastersの林さんと出会い、スペシャルティコーヒーの面白さにすっかり魅了されてしまいました。それから3か月後には退社し、更にその3か月後には静岡でカフェをオープンしていました。
─ETHICUS coffee roasters がオープンするまでの経緯について教えてください。
「エートス」とは住み慣れた場所や故郷のことであり、そこから派生する集団が遵守する慣習や慣行であり、それによって共有される意識や行動のことを意味します。
高校を卒業してから15年ほど静岡を離れていたのですが、その間、自分の中に「地元に貢献したい」という衝動があることに気づきました。自分にできることから始めようと思い、カフェを始めました。3年間営業しているうちに、その空間から派生するものに限界を感じ、それを超越したことをしたいと考え、移転を決めました。そのとき生まれた屋号がETHICUSです。
─ ご使用されている焙煎機の特徴と、なぜそれを選ばれたのかを教えてください。
焙煎機はフジローヤルのR-101、半熱風式を使用しています。カロリー量が低いことが欠点ですが、細かいコントロールができるため、豆にストレスを与えることも、柔らかく熱量を与えることもできます。シンプルな構造なので、豆の変化も捉え易く、狙い通りの焙煎ができるのが良いところです。
生豆を選ぶ基準ですが、品質は勿論重要ではあるものの、それ以上にバイヤーさんとの感性の同調を大切にしています。人間の味覚の信憑性は数%にしか過ぎないので、あまり過信しないようにしています。自分の感性で良いと思ったものを、バイヤーさんの意見を聞いて折り合いをつけて選定しています。
─プロファイル決めなど、焙煎のプロセスでどのような部分に重きを置いていらっしゃいますか?
焙煎のプロファイルは完全に主観で決めています。美味しいという感覚は千差万別ですが、コーヒーが持つ味や個性は一つだという考えを基本の軸としています。そのためあまりプロファイルを大きく調整するということはしませんが、品種、精製プロセス、収穫時期や保管状況、いわゆる豆の状態によって焙煎のプロセスを調整しています。考え方としては、料理と同じくコーヒーを食材として捉えるようにしています。
─地元静岡のコーヒー文化について教えてください。また、今後どのように展開していきたいですか?
静岡県は広大な土地を持つため、地域によって住民の意識、方言、文化に大きな違いがあります。その中心にある静岡市は、東西から人々が立ち寄るため、様々な感性が行きかい共存する都市だと言えます。そのような土地柄、お客様の好みもそれぞれだと感じます。喫茶店文化が主流ではありますが、コーヒースタンドやロースタリーも存在します。
また、コーヒー器具などプロダクトに重きを置いた視点でコーヒー文化を牽引しているような、独自のスタイルを持っているコーヒーショップもあり、お客様もライフスタイルに合わせて楽しんでいるように見えます。今後、様々な場所・場面でより自由な発想が形になって欲しいと思っています。ETHICUS COFFEEとしても、コーヒーを片手に、わくわくする衝動を共有できる空間を創造したいと思っています。
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