コーヒーの味は、豆の種類や焙煎の仕方だけで決まるものではありません。どんな道具を使い、どんな考え方で抽出に向き合うかによって、同じ豆でもまったく違う表情を見せます。
Kurasuでは、日々の営業やレシピ更新とは別に、定期的にチーム内で勉強会を行い、コーヒーに関する理解をアップデートする時間を設けています。新しい器具を追うことが目的ではなく、「なぜそうなるのか」「どこが変数なのか」を言語化し、現場での判断軸をチーム全体で揃えることが狙いです。
今回は、業界でも定番のグラインダー「EK43」 について、「刃の違いが、カップにどのように現れるのか」を確認する勉強会を行いました。結論から言うと、違いは“好み”の前に、「情報量=カップから読み取れる要素(香り・甘さ・酸・質感など)の解像度」として現れました。
そもそも EK43 とは?
EK43 は、ドイツ・Mahlkönig 社の業務用グラインダーです。大径フラット刃(98mm)と強力なモーター、幅広い粒度レンジを持ち、現在ではスペシャルティコーヒー業界におけるひとつの基準機として使われています。
EK43 の特徴は、「細かく挽ける」「粗く挽ける」といったレベルを超えて、挽いた粉の粒度分布に明確なキャラクターが出る点にあります。その分布のキャラクターを決定づける大きな要素が、刃(バリ)の設計です。
今回比較した刃
今回の勉強会では、以下の2つの刃を比較しました。
| サンプル | 刃 |
| A | EK 純正刃 |
| B | SSP Flat Burrs Red Speed 98mm (Ultra) |
SSP(Sung Sim Precision)は、高精度なコーヒーグラインダー用刃を製造するメーカーとして、世界中のロースターや競技者から高い評価を受けています。SSPの刃の中でもとくに Ultra シリーズは、均一性を重視した設計で知られています。
均一性と味わいの関係
そもそも、コーヒー粉の「均一性」は、味にどう変換されるのでしょうか。
粒度の均一性が高いと、雑味の原因となる微粉や酸味の原因となる粗い粒が少ないため、味のノイズが減り、豆本来の個性を純粋に引き出しやすくなると言われます。
一方、粒度に幅があると、様々な成分が溶け出し、複雑な味わいになりますが、同時にノイズも混じりやすくなるとされています。
つまり、刃が変わることで粒度の幅が変化し、それによって水の通り方が変化し、結果として味そのもの以上に「情報の見え方」が変わります。
今回の勉強会の狙い
今回の勉強会の狙いは、同じ豆、同じ焙煎、できるだけ揃えた粒度条件のもとで、刃そのものがカップに与える影響を切り出し、チーム内で共通認識として持つことです。
そのため、ダイヤル番号ではなく粒度の傾向を確認しながら、実用上、比較可能なレンジに粒度を揃えました。それによって、「同じくらいの粗さに見えるのに、口の中で感じる情報の見え方が違う」という、刃そのものが持つキャラクターを浮き彫りにすることを狙いました。
検証条件
| 項目 | 条件 |
| 豆 | 同一ロット・同一焙煎日 |
| 粒度 | 実用上比較可能なレンジに調整 |
| 粉量 | 11g |
| 湯量 | 190ml |
| 湯温 | 100℃ |
カッピングで見えた違い
実際にカッピングを行うと、刃の違いが、明確な「情報の見え方の違い」として現れました。
香りの印象(Dry / Wet)
A(純正刃)
全体的に重たく、やや鈍い印象。香りの要素は多いものの、一つひとつの輪郭がややぼやけて感じられる。
B(Ultra刃)
香りが軽く、クリアに立ち上がる。余計なノイズが少なく、どんなフレーバーなのかを捉えやすい。
カップの違い
甘さ
A(純正刃)
甘さ自体は感じられるが、酸や苦味など他の要素に埋もれやすく、甘さのキャラクターがやや掴みにくい。
B(Ultra刃)
果実感を伴った甘さが前に出やすく、「どんな甘さか」を把握しやすい。
酸(明るさ・角・丸み)
A(純正刃)
全体の印象はやや暗めで粗さがある。ただし、温度が下がってくると、酸がシャープに立ち上がる瞬間がある。
B(Ultra刃)
抽出初期から酸の立ち上がりが早く、熟度のある明るい酸として感じられる。冷めてからも追いやすく、次第に丸みを帯びていく。
質感(マウスフィール)
A(純正刃)
口当たりは軽いが、ややザラつきを感じる場面がある。
B(Ultra刃)
液体の密度が高く、厚みが出やすい。全体としてまとまりの良い質感。
全体像として見えた違い
情報の整理度
A(純正刃)
情報量そのものは多いが、ノイズも含まれるため、全体の像がやや粗く感じられやすい。
B(Ultra刃)
コーヒーの中で重要な要素が前に出てきやすく、味の構成を理解しやすい=解像度が高い印象。
同じ粒度条件でのキャラクター差
A(純正刃)
全体として暗めの印象で、粗さが目立ちやすい。後半の温度帯で酸がシャープに出てくる特徴がある。
B(Ultra刃)
クリアで、生き生きとした印象。複雑さ(complexity)を保ちながら、果実感と質感の厚みが共存している。
今回の勉強会から得られた整理
変わったと感じた点(A → B)
- 香りの立ち上がりと明瞭さが向上
- 酸の立ち上がりが早く、熟度感が分かりやすくなった(冷めてからも印象を追いやすい)
- 果実感のある甘さを捉えやすくなった
- 質感に厚みが出て、全体のまとまりが向上
- 味の構成を言葉にしやすくなった(解像度の向上)
勉強会後の共通認識
- Ultra刃は、解像度・果実感のある甘さ・熟度のある酸・厚みのある質感を引き出しやすい。
- 純正刃は、暗めで粗い像になりやすい一方、冷めた後に酸がシャープに立ち上がる局面がある。
- 両者の違いとして最も体感しやすかったのは、「情報の整理のされ方(ノイズの少なさ)」だった。
まとめ:この検証を、どう活かすか
今回の勉強会を通して、「この刃はこういう味になる」と結論を出すというよりも、チーム全体で同じポイントを見て、同じ違和感や発見を共有できたことが、いちばん大きな収穫でした。
刃の違いは、味を劇的に変えるというより、コーヒーの情報がどう立ち上がり、どう整理されて感じられるかに影響します。Ultra刃では「今どこを触っているのか」「次に何を調整すべきか」が見えやすくなり、一方で純正刃にも、条件次第で活きるキャラクターがあることを、改めてみんなで確認できました。
刃の良し悪し・味の優劣を競うのではなく、違いを観察し、言語化し、共有するという、今回の勉強会の目的を達成できたと思います。
Kurasuでは、こうした勉強会を通して、個人の感覚に留まらない形でコーヒーを捉えることを大切にしています。
世界で評価されているスタンダードを知るだけでなく、自分たちの現場で確かめ、言葉にして、共通の判断軸にしていく。その積み重ねが、日々お店で提供している一杯や、レシピの精度、品質の安定につながっていると考えています。
これからもKurasuでは、道具や抽出を「個人の感覚」だけで終わらせず、チームで共有できる知識として、少しずつ積み上げていきます。



