2013年5月、オーストラリアのシドニーで、Kurasuは生まれました。
その数ヶ月前、私は勤めていたゴールドマンサックスを退職し、次の道を探していました。そんな時、シドニー、オーストラリアに移住できる機会があり二つ返事でそのチャンスに飛び付きました。そこで私は金融業界での経験を活かした職を検討しましたが、何かが違う、と感じ始めました。この人生の分岐点を活かさず、今までと同じ事をするのは幸せではない、心の奥ではそう分かっていたのです。
日本の外で暮らしてみて、そこで日本や日本製のものがいかに愛されているかも知ることができました ―ものづくりの技術やミニマリスティックかつ美しいデザインは人々に広く愛されていました。そこでできた友人たちはいつも、彼らが日本を訪れた際に手に入れた物の素晴らしさを話してくれたり、私たちが日本から持ってきた食器を見てそれはどこで買えるのかと熱心に尋ねたりしてくれました。そのうち、ある思いが芽生えたのです - これをビジネスにしてみてもいいのではないだろうか?と。
2013年6月、オーストラリアで日本の家庭用品を提供するオンラインストア、Kurasuがスタート。
数ヶ月のリサーチと準備を経て、手応えを感じた私は Kurasuを立ち上げることを決めました。日本語の「暮らす」という言葉は、日本語でも英語でも呼びやすく、オーストラリアで日本の家庭用品とライフスタイルを紹介する店の名前としてふさわしいと思い、そのまま店の名前に。立ち上げたばかりの2013年から2014年は、小さなチームと隣でいつも支えてくれた妻に助けられながら、刺激的な時間を楽しんで過ごすことができました。ローカルのコミュニティーにも積極的に働きかけ、マーケットや展示会を巡っては様々な人々と出会い、ネットワークを作り、なにより驚くほどの暖かいサポートを受けました。それまでの会社勤めでは感じたことのない、素晴らしい気持ちでいつも胸がいっぱいだった事を今でもよく覚えています。
Kurasuをはじめて、いかに日本の職人の仕事やデザインが世界で力を発揮しているか、また、ブランドの力を高めることやストーリー性を持っておくことがいかに強みとなるかを心の底から実感しました。と同時に、ある傾向にも気がつきました―売上の6割が、様々な商品のラインナップのなかに少しだけ揃えていた、日本製のコーヒー器具だったのです。
幼い頃からいつも、コーヒーは生活の中心にありました。私の両親が当時人気の絶頂にあったジャズ喫茶をそれぞれ経営していたからです。香り、豆、ビンテージの道具、そして喫茶店独特の空気 ―高校に上がるまであまりコーヒー好きとは言えなかった私にも、コーヒーの記憶は深く刻み込まれていました。それから私は次第にコーヒーに注目し、日本のコーヒー文化やコーヒー器具についてより深く知るため、リサーチをはじめました。
2014年7月、シドニーにて
2015年3月、Kurasuはコーヒー器具専門店として生まれ変わり、顧客ターゲット層も全世界へ。
オーストラリアの人々に日本の家庭用品を紹介できたのは素晴らしい経験でしたが、方針をはっきりと定め、世界中へと門戸を開き、 Kurasuを次のステージへと進めていく時期だと感じた私は、業態を大きく変えることにしました。コーヒー器具の取り扱いにフォーカスし、顧客層を全世界へと展開するにあたり、流通の拠点も日本へと移しました。できる限り仲介のステップを減らし、日本から世界中へ直接商品を送ることが出来るようにするためです。
私たちが目指していたのは、単なる日本のコーヒー器具の小売店ではなく、日本で行われているコーヒーの淹れ方や日本のコーヒー文化、そしてコーヒーの素晴らしさを伝える存在になることでした。世界を席巻しているサードウェーブを見てみると、日本のコーヒー文化から発展したものだということがわかります。コーヒーを淹れる作業ひとつにも技術や心遣いを惜しまない日本のコーヒー文化は他に類を見ません。日本のコーヒーの人気に伴い、 Kurasuへのニーズも高く、毎月数百点の商品を25以上の国へ発送しています。
2015年には日本各地の焙煎所と提携したコーヒーサブスクリプションも開始し、日本国内外で順調に登録者数を増やしています。
2016年8月、KURASU KYOTO オープン
普段いただくお問い合わせの中で、海外のお客様を中心に特に多かったものが、日本のどこに行けばKurasuのショップがあるのか、というものでした。日本への旅行の際に、Kurasuが行先の一つとして選ばれている、その事がとても嬉しく、しかし実際の店舗がないと伝えなければいけないのが歯がゆくもありました。
実際に店舗をもつのは簡単なことではありませんが、これほど素晴らしい商品が並ぶ、そこへ行けばすべてが揃うというショップはマーケットを見渡しても見つからず、Kurasuを実店舗としてオープンすることは理にかなってるように思われました。
サブスクリプションサービスを通した日本中のロースター様とのつながりを更に深くし、旅行者の方々だけでなく日本国内のお客様にもフォーカスした店舗を作ろう、そう決心し、2016年春、故郷である京都に店舗を作ることを決定。8月にオープンすると、Kurasu Kyotoは瞬く間に京都のスペシャルティコーヒースタンドとして話題になり、国内、海外の雑誌にも多く取り上げられるようになりました。
何より、海外からのお客様と地元、国内のお客様がみな集まってコーヒーやショッピングを楽しみ、コーヒー談議に花を咲かせる空間を作り出せたことは素晴らしく、可能性に溢れたかけがえのないものだと感じています。

私にとって、コーヒーとは
コーヒーは私の情熱であり、 Kurasuを通して日本のコーヒー文化を発信し、器具を売り、今の生活の基盤になっている存在です。個人的には、忙しいスケジュールやたくさんの仕事のせわしなさを、ふっと心から追いやってくれるものです。丁寧にお湯を注ぐ作業、コーヒーがふくらむにつれ広がる香りやしずくの音に癒されながら、母が淹れてくれるコーヒーを思い出し、改めてその経験が今の自分を作っているのだと、しみじみと感じます。
日本のこと、コーヒーのことをより多くの人に知ってもらうために、 Kurasuは一歩一歩進み続けます。