ホットコーヒー、湯気の中の秋の気配
年々、暑い時期が伸びてきている気がしますが、気づけば訪れましたね。澄んだ朝の空気を一息呼吸してはじめる朝、半袖だと肌寒い夜の季節。そう、秋です。
お気に入りのジャケットにアイロンをかけるように、アイスコーヒーから、ホットコーヒーへの着換えのタイミング。ホットコーヒーの季節、カップから立ち上る湯気をただ眺める時間なんて、アイスにはないホットならではの良さだと思いませんか。ホッとしたいときにホットコーヒー、カップから広がっていくアロマ。秋の気配は、いつも香りにのってやってきます。

この頃になると、コーヒーが恋しくなる。それは何故でしょうか。一つには、季節感から来る情緒が効いているのではないでしょうか。おそらく秋は、修飾語が多く飾られる季節。読書の秋、芸術の秋、食欲の秋とか。何かとイベントごとも多く、秋はセンチメンタルで少しロマンチックでゆっくりと時間が流れる印象です。一方で、実はアクティブに過ごす時期なのかもしれません。涼しくなりアウトドアもしやすい季節ですよね。どこか足元を軽く感じる気分も、きっとあるのではないでしょうか。
秋澄む、やさしいブレンド 秋うらら 2025
あまり世間話しすぎてもあれなので、ここで、Kurasuのシーズナルブレンドの話にも少し触れさせてください。今だけ味わえる季節のブレンド、「秋うらら」。シーズナルという名前だけに、季節の話も踏まえて、このコーヒーを楽しめるようなヒントをいくつか書いてみたいと思います。
イメージは、澄んだ秋の空気の中で、ふと飲みたくなるブレンド。ローストは、秋のシックな気分に寄り添う中煎り。味わいはBitterでSweetかと思いきや、今回の「秋うらら」はSweet & Sour。晴れた秋空が似合う、「美味しいものの詰め合わせ」のようなコーヒーに仕上がりました。

以下は、「秋うらら 2025」の開発裏話。
今年の秋のシーズナルブレンドは、ホンジュラス マリーサベル・カバジェロのカトゥアイ種をベースに選び、それを基準に他の生豆と焙煎を決めていきました。 マリーサベルのこのコーヒーは、ウォッシュドプロセスでありながらプラムやブラッドオレンジといった、少し赤みがかった果実感が特徴的でした。その果実感を活かすため、ワインイーストを使って発酵させた中国雲南省のコーヒーを少量加え、フレーバーに奥行きを加えました。そうすると、酸がやや曇った印象になるため、爽やかな柑橘の風味があるコロンビアとタンザニアのウォッシュドのコーヒーで全体のバランスを取りました。結果、ボリューム感のある赤い果実やワインの味わいを軸にした、秋口にぴったりのしっとりとしたブレンドに仕上がっています。(ヘッドロースター・Takuya)
プロセスと精製
- ホンジュラス マリーサベルアンドモイセス カトゥアイ ウォッシュド 50%
- コロンビア タビ ウォッシュド 20%
- チャイナウンナン バオシャン ワインイーストファーメンテーション ナチュラル 20%
- タンザニア カラツ AA ウォッシュド 10%
Kurasuでは、この時期になると、ホンジュラスのウォッシュドのコーヒーを毎年紹介してきましたが、今年は秋うららにもそのエッセンスを。生産地の収穫時期や日本への入港時期によって、フレッシュな状態で紹介できるのが秋になる、という事情もありますが、なんだか秋に食べたくなるようなフルーツの印象がある豆なのです。
もう少し、コーヒーにまつわる世間話をしましょう。秋の夜長、別に夜更かしというわけではありませんが、夏から秋、そして冬にかけて日照時間が短くなり、夜の時間が長くなっていきます。

諸説ありますが、暗くなると目に入る情報量が減るために、少し時間の流れがゆっくり感じられるとか。時計の針が回る速さは変わっていないはずなのに。感覚って、常に曖昧で、不思議なものです。
遥か遠くの北欧の人たちは、秋から冬に近づき日照時間が短くなるにつれて、太陽光から得られるビタミンDを求め、昼間にお散歩をしたり、コーヒーを持って行っておしゃべりを楽しむ「フィーカ」をしたりするとのこと。
Kurasuでもドリッパーを扱っているデンマークのスペシャルティコーヒーブランド「April」にも代表される、Nordic style と呼ばれる、浅くてフルーティーで、ワインやお茶のように華やかに楽しめる焙煎は、彼らの軽やかな暮らしを反映しているのかもしれません。

その文脈も踏まえると、コーヒーラバーたちが本当に愛しているのは、コーヒーの味そのものではなく、コーヒーから伝わるその先の風景なのかもしれないと思います。コーヒーカップ、その小さな世界を飲み干すとき、軽やかに思い浮かんだ風景が、私たちを幸せに導いてくれます。至福、この上なく、どこにもない幸福です。風景に溶け込み、寄り添うコーヒーの味わい。シーズナルブレンドを紹介するとき、そういうことを考えます。
Nordic styleならぬKyoto Style、なんて名付けることはしなくとも、Kurasuのスローガンでもある「We serve specialty coffee from Kyoto」のfrom Kyoto とは何かをコーヒー豆のプロダクションの視点から考えたとき、繰り返し話されるキーワードの一つが、「旬」という季節感です。春こち、夏暁、秋うらら、そして冬萌。Kurasuでは、四季に寄り添って4つのシーズナルブレンドを毎年リリースしてきました。

秋うららとは、秋晴れの心地よい日や、晴れやかな気持ちになる秋の穏やかな気候を指す言葉です。年々、長くなっていくように感じられる夏の厳しさに押されて、秋は一瞬で過ぎ去っていくようにも思えますが、それでもじっくりと体感したい空気を、世間話でもしながらコーヒーとともにいかがでしょう……という今回のブログは、情緒的にコーヒーを楽しむための「レシピ」を紹介しているのかもしれません。
さて、少し冗長になるかもしれませんが、もう少し、この「レシピ」にお付き合いください。
Fall in Coffee. 季節に落とされ、コーヒーに恋をする。
秋、イギリス英語では「Autumn」。アメリカ英語では「Fall」が使われるそうです。
「Autumn」の方がラテン語由来ということもあり、より文学的でフォーマルな表現かもしれないと思います。一方で「Fall」は「枯れ葉が落ちる(fall of the leaf)」という秋の情景に由来するという説もあり、より日常的なイメージがあるとも言われています。
そんなイメージから、「Fall in love(恋に落ちる)」という表現も生まれたのでしょうか。突然、枝葉が落ちるように、恋というものもまた、唐突に訪れるものかもしれません。
「Fall in love」――秋に恋をする。
多くの人が、何かのアルゴリズムで一度は聴いたことがあるだろう「Autumn in New York」は、イギリス英語の異邦人の歌なのかもしれません。
「Falling leaves」、枯れ葉が落ちる。
郷愁――「さと」「むらざと」という言葉に対して、秋に心と書く言葉。色鮮やかになっていく景色を眺めると、自分の育った里山が恋しくなるような、ノスタルジックな気持ちになるのかもしれません。

Kurasuで集い、京都でくらす。バックグラウンドの多様なメンバーたちも、遠くからいろんな人たちが集まっています。スタッフに限らず、お客様のバックグラウンドもさまざまです。
Kurasuは、ホームブリューのカルチャーを届ける一歩として、日本の器具を紹介したサンデーマーケットから生まれました。その歴史をたどれば、くらしの隙間と旅人との交差点、日常と非日常のあわいにあるもの、再び遠くへ思いを馳せる時間は、Kurasuの原点とも重なり、また秋の季節感にいちばん似合うような気もします。
日々を「やるべきこと」に追いたてられながら過ごしていると、いつの間にか月日が経っていることも少なくありませんが、本当は忙しく頑張っている人ほど、自分自身をいたわるためにも、立ち止まって味わう時間が必要なのかもしれません。
そんなとき、仕事の合間の一杯としても、旅先での一杯としても、うららかな秋の日を楽しむおともにしていただければと思います。
秋は気が付けば終わりますから。
今日ぐらい、一休み。
温かいコーヒーでも、どうぞ。

(Text: Jongmin)


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