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GLITCH COFFEE & ROASTERS (東京):2018年10月#クラスパートナーロースター

今回の#クラスパートナーロースターは、東京・神保町のGLITCH COFFEE & ROASTERS。店主の鈴木さんは、今ではバリスタの登竜門の代表格であるPaul Bassett の初期メンバーとして経験を積んだ、確かな技術の持ち主。実際にバセット氏の指導を受け大いに活躍した後独立に至り、国内外に多くのファンを持つトップロースターの一つにまで成長した。

輝かしい経歴を持つ鈴木さんだが、その成功の鍵はどこにあったのか。お話を伺ううちに、これまでの歩みと、あらゆる環境をポジティブに変換し、チャンスを作り出していく、そんな鈴木さんの強み、そして人間的魅力が見えてきた。

 

コーヒーが仕事になるまで

 

元々は自社製品の営業・修理を行うサラリーマンだった鈴木さん。順調に仕事をこなしていたが、企業に勤めるという働き方が自分には合っていない、そう感じていた。自分のやりたい事は何だろうー陶芸、シルバージュエリー製作、バイクや車と、興味のある事は全て一度やってみようと決め、とにかく挑戦してみる事に。外回りが終われば比較的自由に時間が使えた環境を活かし、気になる雑貨店があれば通っては仕入れについて質問し、バイクや車の修理販売を行う店で無償で働いてみたこともあるという。

 

そうして4年ほどが経ったが、これだ、というものに出会えなかった鈴木さん。そんなある日、訪ねてきた友人に、自作のマグにコーヒーを入れて出してみた。

「するとみんながおいしい、と言ってくれたんです。その時にすごく満足感がありました。その時に、何かを渡してありがとう、おいしい、また作って、と言われる仕事って実はあんまりないんじゃないかな、と気が付いたんです」

 

コーヒーの周りには、そんな幸せな関係がある。それからバリスタという職業や、抽出方法や器具にもたくさんの種類がある事を学んだ鈴木さんは、生来の凝り性も手伝って、すぐにコーヒーの世界にのめり込んでいった。カフェ経営を具体的に考えれば考えるほど、自分のこだわりやライフスタイルを自由に表現できるカフェという業態の可能性にどんどん惹かれていった鈴木さん。コーヒーの世界に没頭すべく、退職を決意した。

 

 

コーヒーの世界に飛び込んでから独立まで

 

飲食業の経験が全くなかった鈴木さんは、まずは現場での経験を積むことに。当時メディア露出も多かったバリスタが在籍するカフェ・レストラン、バールデルソーレの扉をたたいた。鈴木さんはそこで1年間バリスタとキッチンスタッフを兼任し、基礎を叩き込まれた。「見習いの生活は厳しく、1日で辞める人もたくさんいた位です。でも、一流のシェフがいて、トップクラスのバリスタがいて。学ぶ事がすごくたくさんあって、それがあるから今があると思っています」と鈴木さんは当時を振り返る。しかし激務についに体が悲鳴を上げ、医師から長期自宅療養を命じられる事態に。働き続ける事が不可能となり、栃木の実家でしばらく療養生活を送った。

 

体調も落ち着いたころ、次のステップではもっとコーヒーについて学びたい、鈴木さんはそう考えていた。以前の店でエスプレッソやラテについては詳しくなったが、焙煎や産地による味の違い、ブレンドの意義など、コーヒーそのものについての知識はまだ足りないと感じていたからだ。そこで鈴木さんは次の勤め先として豆販売大手のキャメル珈琲を選び、入社してからはとにかく貪欲に知識を吸収した。業務以上のものを追い求める鈴木さんを、周囲も次第におもしろがってくれるようになり、特別に焙煎工場に連れて行ってくれたり、カッピングをして厳しく味覚をテストしてくれるなど、様々な形でサポートを与えてくれた。

 

順調に経験と知識を磨いていた鈴木さんの元に、ある日バリスタ世界チャンピオンのポール・バセットが日本で店舗を立ち上げるという情報が舞い込んできた。バセット氏が直接プロデュースすると聞き、自らのスキルをよりブラッシュアップすべく、鈴木さんは再び転職を決めた。

銀座店では40人ほどを採用するなど、かなりの規模でスタートしたPaul Bassett。その中で鈴木さんは瞬く間にトップバリスタ、チーフロースター、店長としてチームを支える立場に。独立した今でも、クオリティチェックや新事業立ち上げのミーティングに参加するなど、ブランドに欠かせない存在として活躍している。

 

13年間ほどの在籍期間中には、ラテアートや抽出方法など日本のコーヒーカルチャーの変遷を第一線で感じ、更にレネゲード、東京産機工業、フジローヤル、プロバットと様々な焙煎機を経験し焙煎の腕を磨いた。こうして長らく活躍してきた鈴木さんだが、店で求められるもの以上に自分で実現したい焙煎への思いが高じ、独立を決意する。

 

 

GLITCH COFFEE&ROASTERSのコーヒー

 

店を構える場所として選んだのは、神保町。皇居にほど近く、歴史ある街の空気が気に入った。3代目、4代目として伝統を背負う若い店主達や、地元に根付いた喫茶店など、流行りに左右されないエリアに自分も腰を据え、挑戦したいと感じたという。

 

オープン当初はエスプレッソを前面に押し出さないスタイルが業界内で話題となり、他店のバリスタなども数多く訪れた。

「産地の良さとか、自分が今まで体験したものの中でも、こんなコーヒーがあるんだ、という感動やハンドドリップの良さを表現したかったんです。例えば最初からブラジルとコロンビアのブレンドのラテを飲むと、ブラジルはどんな味がするのか、それにミルクを合わせるとどうなるのか、と順を追って理解することができませんよね。それが分かる事でより楽しんでいただけるような出し方を心がけています。」

 

GLITCH COFFEE&ROASTERSのコーヒーは基本的に浅煎り。前職で自主的に試行錯誤した経験から、自分が求める味わいはオープン当初からすでにある程度固まっていた。しかし振り返ってみれば、ただ浅煎りと言っても、自分の中でこれがいい、という浅煎りはまだ確立していなかったと鈴木さんは話す。技術が洗練されるにつれ、生豆の質が与える影響の大きさも改めて感じ、今では買い付けに同行するなど、自らが納得できる商品づくりを追求している。

 

使用している焙煎機は新型のプロバット。ビンテージよりもずっと細かい調整が可能で、一年を通した環境の変化にきめ細かく対応できるのが魅力だという。様々な焙煎機に触れた豊富な経験をもとに、自分の味を最も良く表現できる焙煎機として愛用している。

 

鈴木さんのこれから

 

店内を見渡せば、観光客など、日本以外のバックグラウンドを持つゲストが半分ほどを占める日もあるGLITCH COFFEE&ROASTERS。旅行の行き先の一つとして訪れてくれる人もいるという。日本のロースターのプレゼンスの高まりを嬉しく思うと同時に、将来への焦りを感じることもある、と鈴木さんは話す。 

 

「日本のコーヒーが美味しいね、という流れができてきていると思います。でも、もっと外へ出て発信していかないと、次第にしぼんでいってしまうかも。TRUNK COFFEEの鈴木さんはそういった面でもすごく尊敬しています。自分も含め、もっと海外に出て行って表現していかないと。日本にはせっかく良いものがあるんですから」

 

飾らない姿勢で、自らの思いをオープンに語ってくれた鈴木さん。人生の各ステージにまつわるエピソードからは、その粘り強さと行動力、常にモチベーションを保ち理想を追い求め続ける意志の強さが伝わってきた。日本を引っ張るロースター、バリスタとして、今後ますますの活躍が期待される。