Kurasuが次にご紹介するのは、東京・経堂にあるFinetime Coffee Roasters。オーナー・ロースターの近藤さんにお話を伺った。
Finetime Coffee Roastersがオープンするまでの経緯を教えてください。
元々はセゾングループで流通や財務に携わっていました。
そこで社内の留学制度を利用して、MBAを取得するためにミシガン大学へ進学した後、10年ほどモルガンスタンレーの財務やオペレーションに関わっていました。その後退職を機に、新たに一人の生活が始まったのが40代後半の事でした。
第二の人生で何かしたいと思い、それまで経営や金融を学んでいたこともあり、自分でビジネスを立ち上げる事に決めました。食べることが大好きだったので食に関わる仕事がしたいと思ったのですが、シェフの修行を始めるというのもしっくりと来ず、しかし何か自分の手を使ってやってみたいと考え色々と調べ始めました。
するとコーヒー業界が大変盛り上がっている事を知り、元々コーヒーが好きで浅煎りのコーヒーももっと広めたいと感じていたこともあって、コーヒーに関する仕事をしようと思い至りました。中でもカフェは人が集まるコミュニティとしての場として興味深く、カフェのカルチャー、アートや映画など、自分の好きなものを組み合わせていい空間を作ってみたい、そう思いカフェをオープンすることに決めました。
その内に今の妻とも出会い、カフェを経営しながら2階に住んだら楽しそうだね、と話し合い物件探しをスタート。リノベーション物件を多く扱う会社にこの物件を紹介してもらいました。妻は元々の仕事を続けていますが、今は産休中で、カフェのお菓子作りなどで活躍してくれています。
どのようにして提供するコーヒーを絞っていきましたか?どのようにコーヒーについて勉強しましたか?
元々コーヒーは好きだったのですが、もっと浅煎りについての知識と経験を増やしたいと考え、開店するまで1年半程かけて勉強しました。東京を中心に、スペシャルティコーヒーを扱うところなど、200件位は回ったと思います。セミナーもある所には全て参加しました。
そのうちFuglen Tokyoに出会い、彼らのコーヒーや、生豆を扱うノルディックアプローチなどをとても気に入ったので、オスロまで行ってカッピングをさせてもらい、豆を買いたいと持ち掛けると快諾してもらえたんです。ですが少量単位での購入は割高になるため、Fuglen Tokyo経由で生豆を仕入れる事を提案され、日本で小島さんに改めてお願いし、取引がスタートしました。
その他にも、開店準備期間中にQグレーダーを取得し、エアロプレスチャンピオンシップで3位にも入賞しました。
短期間に本当に色々な事をされたんですね!
これと決めると突き詰めるタイプなんです(笑)とにかく時間はありったけ使い、徹底的に勉強しました。
なぜ経堂を選んだのですか?
経堂は食べ物屋さんが多く昔からよく来ていたので馴染みもありました。美味しいものが好きな人が集まる場所ならば、美味しいコーヒーもきっと受け入れられる、そう思い、土地勘もあるこの場所を選びました。
Finetime Coffee Roastersのお客様について教えてください。
客層としては近所や地元の方が主ですが、コーヒー関係の方々やコーヒー好きの方々が遠方からも多くいらっしゃいます。
一度関西ローカルのテレビ番組の取材を受けたことがあって、その時には関西からの豆の注文が一気に増えました。その後他の地域でも放送される度にその地域からの注文をたくさんいただきました。その後も引き続き注文してくださっている方もいらっしゃいますし、テレビを見た年配の方から、「インターネットを使えないので」とはがきで注文をいただいたこともあるんです。テレビの力の大きさを改めて感じました。
カフェがリノベーション物件ということで、リノベーション物件を扱う雑誌にも時々取材されることがあり、その影響で新たに興味を持っていただく事もあります。
カッピングなどのイベントもたくさんやっていらっしゃいますね。
そうですね、できればもっと頻繁にやりたいです。単発でいくつかやってみたセミナーにも手応えがあったので、積極的に開催していきたいなと思っています。
はじめていらっしゃるお客様の8割ぐらいからは「酸っぱくなくて苦いのをください」と言われるのですが、うちはもう苦みの強い物は置いていないんです。自分自身、浅煎りが好きになるにつれて苦みの強い物は飲めなくなってしまったのもありますが、深煎りを置いてしまうとお客さんが皆そちらを選んでしまい、浅煎りを紹介する機会がなくなってしまうために意図的にそうしています。ずっと深煎りに親しんできた方にはなかなか受け入れるのが難しい部分もあるようで、「コーヒーじゃない」なんて言われてしまう事もあります。浅煎りにもっと親しんでもらえるようになるためにも、どんどんイベントを開催していこうと思っています。
Finetime Coffee Roastersのコーヒーについて教えてください。
コロンビアやアフリカ系はノルディックアプローチから、それ以外の中米系などは他のところから仕入れています。提供しているのは基本的に浅煎りで、深煎りは出していません。
せっかくエアロプレスチャンピオンシップで3位になったので、それを活かしてエアロプレスで抽出し提供しています。あとはエスプレッソ、カフェラテも出していますよ。
焙煎、抽出などは全部ご自身で勉強されたのですか?
基本的には自分で全部学べる場所を探して勉強しました。焙煎はカフェテナンゴさんで。やや深めの焙煎をされているところなのですが、深いのにクリーンなコーヒーを焙煎されるのに感銘を受け、セミナーなどに参加して習いました。中米のスペシャルティに特化している、なかなかディープなところです。あとはバッハさん、富士工機さんのセミナーにも参加しました。
オープンまでにかなり特訓したとはいえ、やはり豆によっては焙煎が難しくなかなか安定しませんでした。開店してからも手探りで進むこともありましたが、それでもある程度の味を出せるノルディックアプローチの豆はやはり素晴らしいと改めて感じました。まだアフリカ系の豆が出ていなかった頃、すごくいいコロンビアがあって、たまたまうちでしか扱っていなかったのでその時はかなり評判になりました。
エスプレッソ系は押上にあるバリスタトレーニングラボで勉強しました。そこではWBCのジャッジの方が、本番さながらに味を見て採点しながら教えてくれました。
お菓子も自分で焼いてるんです。あまり数は出せないのですが、焼き菓子を常時3種類ほど店に並べています。パンの学校も行ったのでパンも焼けます。全部1年半に詰め込みました(笑)
焙煎機は何を使っていらっしゃいますか?選んだ理由を教えていただけますか?
ディードリッヒの5kgです。カフェテナンゴがディードリッヒだったのと、ヨーロッパで好きだったロースターが使っていることもありますが、遠赤外線で甘さを引き出せるところがとても気に入っています。
オスロはコーヒーカルチャーを見るために始めて行かれた場所ですか?
そうですね、昔サンフランシスコにも行ったのですが、まだコーヒーの世界にどっぷり浸かる前だったので、そういう意味ではきちんとコーヒーカルチャーを見てきたのはオスロです。
コーヒー好きの仲間がお土産にどっさり豆を買ってきてくれたりして、色々試したりはしていました。
Fuglen Tokyoのカッピングには毎週行っていて、ここのコーヒーが好きだなと思ったのでオスロに行きました。ノルディックアプローチにメールを送って、生豆を仕入れたいのでカッピングに参加させてくれないかと頼むと快くOKしてくれたので、妻と二人で訪問したところ、なんと私達二人のために10種類ほども豆を揃えてカッピングをしてくれたんです。オールドクロップも混ざっていたりして、今考えると試されていたのかも?と思いますが(笑)、Fuglen Tokyoのカッピングに通い詰めていたおかげか、きちんと判別できたようで、いい結果につながりました。
エアロプレスを始めたのもオスロの影響です。浅煎りがジューシーに抽出できるのでいいですね。エアロプレスチャンピオンシップの入賞も、味に対する感覚を育てることができていたのも大きかったのかな。
今後の展望について教えてください。ビジョン、今後の位置づけは?
本来は豆をもっとメインに売っていきたいです。うちの豆の味をもっとたくさんの人に知ってもらいたい。できればコーヒースタンドのような形で、たくさんの人々が通るような場所で、Finetime Coffeeを全く知らない人に試してもらいたい、そう思っています。卸売りもしていきたいし、セミナーももっとやりたいです。豆を買っていってくださる方で、うちで抽出するものを飲んでいかれる方がとても少ないんですよね。お家でどんな風に抽出しているのかな、などと考え出すと不安になるときもあって(笑)豆の魅力を最大限に生かす抽出はこう、こんなに美味しいんですよ、という味を何らかの方法でもっと発信して行きたいと思っています。
カッピングを毎週必ず開催していて、常連さんやコーヒー関係者の方はいつも来てくださるのですが、カッピング自体まだ日本で馴染みがないためか、気にはなっているけど実際に参加するのは少し、という方が多いように感じています。カッピングについてのセミナーを開催するのもいいかなと思っています。
盛りだくさんですね!全てお一人で行われているのですよね?
そうですね。飲食業を経験した事が無かったので、自分で一通り全部経験しないとと思ってやっています。でも今後は、活躍の場が見つけられず芽を出せていない若い人たちや、バリスタをやってみたい!という人たちに来てもらって、一緒にやっていこうかなと考えています。
焙煎はしばらくは今の状態でやっていこうかなと思っています。理想を言えば、コーヒースタンドでコーヒーのみを提供し、店舗では焙煎と豆販売に特化するような形にできればいいですね。
開店1か月後にお子さんも誕生され、いよいよ忙しく、また充実した日々を送る近藤さん。理想に向かいひた走る勢いとはっきりとしたビジョンで、人をつなげ、育て、通が集まる経堂で欠かせない存在となっていくことだろう。
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