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タイ産地ブログ2026(前編: チェンマイ)

タイ産地ブログ2026(前編: チェンマイ)

KurasuヘッドロースターのTakuyaです。2026年2月に、タイ北部のチェンマイとナーンにある農園を訪問しました。今回のオリジントリップは、Kurasu BangkokのマネージャーAum、Kurasu SingaporeのロースターXavierと3人での旅となりました。普段はそれぞれの国でコーヒーに携わっていて、直接顔を合わせる機会は多くありません。それでも、このオリジントリップを通じてお互いの近況を直に共有できたのは、とても良い時間でした。

初日は、チェンマイとラムパーンの県境付近にあるPhupha Estateを訪問しました。Phupha Estateは、実はKurasu Bangkokのスタッフの一人であるTaoの友人のご家族が営む農園で、2025年からBangkok店とダイレクトトレードをしています。実際に訪れるのは(Aumも含めて)今回が初めてで、気持ちを高揚させながらチェンマイの空港から車を走らせました。

ちなみにタイというと常夏で暑いイメージがあるかもしれませんが、私たちが訪れた時期は、チェンマイなど北部のエリアでは夜間に20℃くらいまで下がって少し肌寒いくらいで、とても過ごしやすい気候でした。チェンマイの中心部は緑に囲まれた歴史的な情緒が残る街で、コーヒーショップや雑貨店、アートセンターなどの現代的なカルチャーも盛んです。日本に複数店舗を持つアカアマコーヒーの本店も、ここチェンマイにあります。バンコクが東京だとすると、チェンマイは京都のような雰囲気を感じました。

Phupha Estateへは中心部から車で約1時間半程度で到着し、農園主のAnnさんが出迎えてくれました。タイのコーヒー農園の収穫期は通常12〜2月で、私たちが訪れた時期もちょうど収穫と精製を行っているタイミングでした。

Phupha Estateは、40年前にAnnさんの母がコーヒー生産をスタートしたことから始まります。もともとこの土地では茶葉を生産していましたが、お茶の製造工程である蒸熱(スチームで蒸す工程)や冷却を、この場所で安定して行うのが難しかったことから、コーヒーを植え始めたと言います。現在はCatuai、Caturra、Bourbon、Yellow Bourbon、SL、そしてTypica種を13haの農地の中で栽培しています。標高1,300mの急斜面に所狭しとコーヒーノキが植えられており、完熟したチェリーのみをハンドピックしています。ピッカーは1日に45〜100kgのチェリーを摘み取ります。昨年の収穫では約2トンの生豆を生産し、今年は約2.5トンの生産を見込んでいるそうです。

収穫が終わったチェリーは専用の45kg袋に詰め、約24時間レストさせます。レストが終わった翌日、水を張ったタンクの中にチェリーを移し、洗浄とフローター選別を行います。密度が十分でないコーヒーチェリーは、ここで取り除かれます。

ウォッシュドプロセスでは、選別されたチェリーをPenagos社製のパルピングマシンにかけます。このマシンは、水を使用せずにチェリーの果皮を剥くことができます。剥ぎ取られた果皮(コーヒーパルプ)は別途集めて乾燥させ、カスカラとして再利用されます。パルピングが終わった後に丁寧にマシンを水洗し、清潔な状態を保っていたのが印象的でした。

パルピングされたコーヒーは専用のバケツに移し、水なしで約24時間発酵させます。これはDry Fermentationと呼ばれるもので、水を使って発酵させるのをWet Fermentationと呼びます。Annさんいわく、Dry Fermentationはコーヒーの酸味の質が向上する傾向があり、Wet Fermentationはコーヒーのバランスや一貫性が向上する傾向があると考えているそうです。

Dry Fermentationの場合、pHが約3.8になったタイミングで水洗の工程に移し、発酵を止めます。pH4.0くらいのときに味見させてもらいましたが、熟した柿のような甘さがありました。糖分がまだ多く残っているので、もう少し甘酸っぱい味になるまでpHを下げる必要があるとのことでした。ちなみにナチュラルプロセスやハニープロセスでは、水洗の工程がない分、乾燥中にも発酵が進んでいくため、pH3.8よりも高い数値で発酵工程を終えるそうです。

アナエロビックナチュラルについては、Lactic Bacteria(乳酸菌)と塩、糖を加えて嫌気性発酵をしています。乳酸菌は発酵の方向性を安定させるため、塩は微生物の増殖速度を制御してオーバーファーメンテーションを防ぐため、糖は微生物の燃料として発酵に一貫性を持たせるために加えています。すべてg単位で計量し、適切な温度で添加することで、嫌気性発酵プロセスにしっかりと再現性を持たせることができます。発酵中も適宜タンク内の温度や圧力を確認し、丁寧にコントロールしていました。

水洗または発酵工程が終わった各プロセスのコーヒーは、アフリカンベッドで乾燥に移されます。このチェンマイの山奥では、1日に4時間ほどしか太陽光が適切に当たらないため、しっかりと時間をかけて乾燥を進めます。天候によって変動はありますが、ウォッシュドは約14日間、ハニーは約25日間、ナチュラルは約45日間が目安です。

乾燥場所も、この期間のなかで移動します。外または機械乾燥 → ビニールハウスの上段 → ビニールハウスの下段というように、水分値が高いときは日差しが強い場所へ、水分値が下がってきたら日差しが弱い場所へ移動させることで、適切な水分値コントロールを目指しています。水分値は朝と晩に1日2回計測し、10〜11%まで落ちたら乾燥を終了します。

乾燥が終われば、車で約30分ほどの場所にあるドライミルにパーチメントコーヒーを移動し、脱穀・選別・袋詰めを行います。ここまでできれば、生豆として出荷準備が整います。

Phupha EstateはAnnさんを中心にご家族で経営しているコーヒー農園だからこそ、あらゆる工程がとても丁寧で、細かいところにまで手が行き届いていると感じました。途中でも述べましたが、使っているマシンだけでなく、資材やコーヒー器具、トイレに至るまで、とても清潔に保たれていたことが非常に印象的でした。

訪問時にウォッシュドとハニーのサンプルをいただき、後日カッピングしたのですが、クリーンで酸味も明るく、味わいのレイヤーも美しく、タイコーヒーのイメージを良い意味で覆されるカップでした。

「直接会えなくても、コーヒーを飲んでもらえれば私たちのことが分かる。だからコーヒーを飲んでくれたらそれだけで嬉しい」

というAnnさんの言葉の通り、丁寧な手仕事と品質への追求が、味わいから伝わってきました。

そして、Annさんの母が作ってくれた手料理が本当に美味しかったです。近くで採れた新鮮な食材を使った北部タイ料理が並び、これだけを食べにまた来たいくらいでした。

Phupha Estateでの2日間の滞在を経て、私たちはナーンにある農園へと向かいました。(後編へ続く)

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