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タイ産地ブログ2026(後編: ナーン)

タイ産地ブログ2026(後編: ナーン)

KurasuヘッドロースターのTakuyaです。2026年2月に、タイ北部のチェンマイとナーンにある農園を訪問しました。前編に続き、旅の様子をお届けします。

チェンマイからナーンまでは、車で約6時間かけて移動しました。(最短経路なら3時間ほどで到着するそうですが、危険を伴う山道のため、今回は安全を優先して迂回ルートを選びました。)ナーンは隣国ラオスとの国境に近い山あいの県で、チェンマイとはまた違う空気感があります。山と森に囲まれた盆地に位置し、のどかな田園や山脈の風景を望むことができます。私たちが泊まった宿からも美しい朝日が見え、滞在するだけで心が洗われるような場所でした。

ナーンでは、Big Black Boxという生豆商社にアテンドしていただき、2025年のCOE(Cup of Excellence/国際的なコーヒー品評会)で1位・2位・7位を獲得したChing Family Farmを訪問しました。Chingさんが30年前に始めた農園で、現在は二人の息子とともに運営しています。息子の一人であるChartchaiさんは、Discovery Coffee Farmという別名義でもコーヒー生産に取り組んでいます。彼らはManee Pruekという村で、標高1,300〜1,600m、約16haの土地でコーヒーを栽培しています。タイでは高標高の土地は国有地が多く、政府によってあらかじめ区画が決められているため、アラビカが育つコーヒー農園は小規模農家であることが多いようです。

彼らの農園で栽培しているのは、Geisha、Java、Typica、Syrina、Ethiopian landraceなど。農地面積の多くをGeishaが占めています。このGeishaは、同じナーンにある農園であるGem Forestから譲り受けたそうで、パナマから持ち込まれたGeishaの苗から選抜されたものです。パナマゲイシャに近い遺伝的背景を持っており、Manee Pruek村は気温や湿度などがパナマに似ていて、涼しい風が強く吹きます。そのため、ここは「タイで最も素晴らしいゲイシャが育つ土地」だと考えられているそうです。

Ching Family Farmのゲイシャの木。訪問時で10歳ほど。

彼らの農園では、GeishaをGeisha 01とGeisha 02の2種に区分して栽培しています。01はピーチのような風味、02はフローラルな風味が特徴。さらに最近、Geisha 01の区画を回っているときに、他の品種と自然交配した新しい個体も見つかりました。これは研究機関に提出する予定で、新品種と認められれば新たに命名できるかもしれないそうです。

そしてGeisha 02の区画でも、新しい発見がありました。タイで栽培されるGeishaは基本的に丸みを帯びた形が多いのですが、パナマゲイシャに近い細長い形状のチェリーをつけるコーヒーノキが見つかったのです。今後、収穫と精製を終えた後のカップクオリティが良ければ、その種子を植えていくことも検討していると話してくれました。品種とは固定されたものではなく、現在進行形で変化し続けるものだと、改めて実感しました。

また、Java種に関しても2つの区画に分けて栽培されています。Java種のコーヒーノキが新芽を出すとき、緑色の新芽が出るものと赤色の新芽が出るものがあるそうです。赤色の方は、ラオス由来のJava種だと考えられているとのことでした。

赤色の新芽(ラオス由来のもの)
赤色の新芽(ラオス由来のもの)
緑色の新芽
緑色の新芽

Ethiopian landraceは、最近植え始めた品種で、まだ試験段階のようでした。もしカップクオリティが良く、この土地にフィットするようなら残す。一方で、あまり土地に合わないようなら伐採して、別の品種の区画を増やしたいと考えているそうです。GeishaやJavaなどはすでにこの土地に合うことが分かっています。短期的なことを考えると限られた農地で収入を減らすリスクを取る必要はないはずですが、彼らは長期的な視点を持ち、常に新しい可能性に挑戦し続けています。

タイの農園では品種を区別せずに植えているところも多い現状があります。しかし彼らは、Geishaの苗を周辺の農家に分け与えるなどの活動も積極的に行っており、最近は彼らのように品種を区別して栽培する農家も増えてきています。

Ching Family Farmはウォッシングステーションを2つ持ち、自分たちの農園だけでなく、周辺の小規模農家のチェリーも集めて精製を行っています。年間生産量は、自身の農園が約1トン、周辺農家分が約3トンとのことでした。各プロセスの乾燥は、ウォッシュドで約2週間、ハニーで約3週間、ナチュラルで約2ヶ月かけて水分値を落としていきます。ウォッシュドは、パーチメントの水分値が7〜9.5%になったタイミングで乾燥を止めるそうです。脱穀後の生豆では10〜12%に収まる計算になります。ちなみにナチュラルは体積が大きいため、7〜9%と、より低い水分値まで乾燥で落とす必要があります。

保管方法についても、できるだけドライミルでの脱穀のタイミングを遅らせることで、パーチメント状態での安定した保管を実現しています。同じ精製日で、「すぐに脱穀して生豆で保管したもの」と「脱穀を遅らせ、パーチメントのまま長期間保管したもの」を飲み比べさせてもらいましたが、味わいの印象が大きく異なりました。どちらも素晴らしく美味しいコーヒーでしたが、パーチメント保管の方が、よりフレーバーの複雑さを感じました。こうした細かいながらも、確かに品質に影響する要素を丁寧に検証し、オペレーションに落とし込んでいる。その姿を見て、昨年のCOE1位は獲るべくして獲ったものだと感じました。

ランチ後には、私たちも含め、その場にいたメンバーが一人ずつコーヒーを淹れていく時間がありました。その中でも、農園主のChartchaiさんが淹れてくれたコーヒーが、忖度なしにいちばん美味しかったです。華やかで甘く、フルーティなゲイシャを、それが生まれた農園で飲めたことは本当に特別な体験でした。

タイのコーヒー生産の歴史はまだ浅く、現在の生産者の多くは第二世代です。若い世代がCQI(Coffee Quality Institute/コーヒー品質の教育・認証などを行う国際団体)などの団体から学び、バリスタやロースターの経験を積みながら、情熱を持ってコーヒー生産に取り組んでいます。前述のとおり、タイでは高標高の土地は国有である関係上、一人のオーナーが広い農地を所有することはできません。こうした限られた農地だからこそ、個性豊かなコーヒーを高い品質で生産していけるポテンシャルがあるように感じました。今後のタイコーヒーの発展に大きな可能性を感じた、実り多いオリジントリップでした。

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