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ABOUT US COFFEE (京都): 2021年4月 Kurasuパートナーロースター

ABOUT US COFFEE (京都): 2021年4月 Kurasuパートナーロースター

今月の#クラスパートナーロースターは、京都のABOUT US COFFEE (アバウトアスコーヒー)。2019年10月にオープンした比較的新しいコーヒーショップだが、コンセプトやコーヒーに出会いにやってくるお客様への接し方など、考え抜かれ提供されるコーヒー体験とおしゃれなインテリアですでに多数のファンを持つお店だ。人気のコーヒー系YouTuber、カズマックスさんのブレンドも手がけている。今回は、そんな新進気鋭のロースター、店主の澤野井さんにお話を伺った。

「お店はキャンバス。来てくれるお客さんや、コーヒーを淹れるスタッフがこの空間にいてくれることで完成する場所」

京阪伏見稲荷駅から徒歩4分ほど歩いたところにあるABOUT US COFFEE。隣接しているのは京町家を改装した宿、「稲荷凰庵」と、風情のある小道へ大通りから一本入ったところに店舗がある。「白いキャンバスのようにしたかったんです。お客さんやスタッフがこの空間にいてくれることで、絵が完成するような」と澤野井さんが説明してくれた店内に入ると、一階はモノトーン、二階のイートインスペースは雰囲気が変わって白を基調にしたラグジュアリーな空間。近隣の大学に通う学生たちを含め、比較的若い世代が素敵な空間と美味しいコーヒー、フードを楽しみに訪れる。

焙煎機はディードリッヒの2.5kgを使い、品揃えは浅煎りを中心にシングルオリジンの深煎りまで、常時6種類程度を提供している。

「深煎りやエチオピアのナチュラルが人気です。エチオピアだから、というわけでもなく、まだどんなコーヒーが好きか分からないという方が、あっ、美味しい、好き、とおっしゃる事が多いです。僕もはじめエチオピアから入った事もあってやっぱりエチオピアは強いなぁと思います。個性のあるコーヒーを色々と揃えていますが、コーヒー、と聞いて思い浮かべる味わいはやはり苦みなのか、深煎りもよく出ています。パティシエのスタッフも新しく入ってくれたので、浅煎りの美味しさもどんどん伝えられるように、新作のお菓子ではペアリングについても考えています」と、澤野井さん。

コロナ禍、オンラインでつかんだ新たな道筋

コロナウイルスの影響でやはりカフェを訪れる客足は減ったと話す澤野井さん。去年の四月には、家賃と固定費を払い、スタッフにお給料を渡すと何も残らない、というところまで売り上げが落ち込んでしまったという。色々な方法を模索する中、オンラインストアをオープンした。さらにYouTuberのカズマックスさんのブレンドを手がけたところ、一気に100㎏分ほどの注文が。

「YouTuberの力はすごい、本当にそう思いました。オンラインストアをはじめたばかりでいきなり大量の焙煎や注文管理、発送作業に対応したことで、色々と課題点も見えてきました。どうしようかと思いましたが、大量に焙煎する時の品質の安定、そして更に向上させることも含め、早い段階で色々な課題がしっかり見えて、レベルアップできたので良かったと思います。今後ロースターとしてしっかり認知されていくにあたって、客観的な基準というか、肩書にも拘っていきたいと思います。Qグレーダーの資格は持っているのですが、さらにJCRC(ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ)などの大会にも挑戦していきたいです」、そう澤野井さんは当時を振り返る。

全く違う業界からコーヒーの世界へ

「自己表現が苦手で、言葉以外で表現できる手段が洋服だった」と話す澤野井さんは、ABOUT US COFFEEをオープンする前は、ハイブランドの販売員をつとめていた。

銭湯を営む家で育ち、自営業という環境が身近にあった澤野井さん。いずれは自分もお店を、と思っていたという。洋服が好きで、自然とファッションの道へと進んだ。洋服に込められたデザイナーの想いやコンセプトを知り、その魅力を顧客に伝える仕事は充実したものだった。個人でもファッション関係のインスタグラムのアカウントを運用し、一時期はフォロワーが8千人ほどいたこともあるという、天性のストーリーテラーだ。

しかし、自分で何か事業を、と考えたとき、澤野井さんが選んだのはスペシャルティコーヒーだった。「社会人になるまでコーヒーは飲めなかったです。勉強のため、眠気覚ましのために飲む苦いものだと思っていました。でもある時LiLo Coffee Roastersさんでラテを飲んで、そのフルーティーさにびっくりして。ラテからこんなベリーの味がするんだ!と思いました。そこを入り口に、コーヒーの特徴やフレーバーにも興味を持って、ブラックコーヒーも飲むようになりました」と振り返る澤野井さん。

自分でも美味しいコーヒーを淹れられるようになりたい、そんな気持ちが高じて、食に関わるプロを育成する専門学校、レコールバンタンに入学。バリスタ、抽出の基礎的なコースを選択し、その後さらに深くコーヒーを学ぶため、続けて焙煎のコースを受講した。

「京都にはコーヒー屋さんが多いし、その中でも自分なんてまだまだ、と思います。でも、たくさんあるからこそ巡ってくれる人も多いだろう、と考えて出店を決めました。カフェ巡りをする中で、うちが候補の一つになってくれたら、そして来てくれた時に、期待値以上のものを出せたら自然と口コミなどで広がっていくだろう、と考えています。」そう話す澤野井さん。

自分でお店を立ち上げる、と考えた時、アパレルのセレクトショップをするのも何か違う、と思ったという。だからといって、自分で洋服を作れるか、というとその部分は専門ではない。それまで澤野井さんが積み重ねてきたスキルというのは、顧客と話し、ブランドのストーリー、デザインの後ろにあるものを伝える事でその人と商品とのマッチングをすることだった。 

「そういう意味で、生産者のストーリーがあって、豆に個性があって、自分も面白い、美味しいと思うものを紹介していくスペシャルティコーヒーショップが良いと思ったんです。

だからコーヒーショップって、基本的にアパレルのセレクトショップと同じだと思っています。来てくださる方にマッチするコーヒーが見つかるように、色んな産地や品種、プロセスが並ぶように心がけています。Qグレーダーの視点から、客観的にポテンシャルが高そうなもの、ラインナップがかぶりそうじゃないもの、甘味がしっかりあるもの、など、幅広いタイプのコーヒーを提供しています。」と、澤野井さん。

自らのスペシャルティコーヒーとの出会いを振り返ったとき、澤野井さんにとっての「正解」は、エチオピア、浅煎りのフルーティーな味わいだった。けれど、他の人にとっての正解はまた違うかもしれない。そう澤野井さんは言う。だからABOUT US COFFEEでは、豆の多様性、焙煎度合いの多様性を大切にしながら、豆の個性が出やすい浅煎りの魅力も伝えられるように力を入れている。

「店内をキャッチ―なデザインにしたこともあって、若い世代の方が多く来店されます。コーヒーが飲めない、という人がいらした時にコーヒーを好きになるきっかけになれるよう、まずはコミュニケーションをしっかりとって、どんなコーヒーをお勧めするのがいいかをきちんと見極めます。例えば、苦いのが苦手、といっても、その”苦い”にも色々ある。焦げたような苦さか、レモンの皮を噛んだような渋さか。人によっては、その”苦い”は”酸っぱい”かもしれない。あとはその日の気分でも飲みたいコーヒーって違いますよね。安心したい気分か、挑戦してみたい気分か。その辺りも、試飲やヒアリングしながら接客を進めます」澤野井さんはそう説明する。

どんなコーヒーが好きか分からない、今日はこんな気分、じゃあどんなコーヒーを選んだらいい?そんな時、真っ先に訪れたくなる場所だ。

「ABOUT US」とは

企業やブランドに興味を持ったとき、ウェブサイトで見るのが「ABOUT US(私たちについて)」のページ。そこでは、事業を立ち上げた想いや、これまでの道のりが記されていることもある。澤野井さんにとって、コーヒーは自分を表現するツールだが、そこに表現されているのは澤野井さん一人だけではないのだという。

「コーヒーショップはセレクトショップ、と言いましたが、それぞれのコーヒーに、ここに来るまでにもストーリーがある。誰がどんな想いで作っているかという生産者たちの情報など、自分が焙煎する以前の人たちも皆含めて”US”だと思っています。それを紹介するから、ABOUT US。ロゴのデザインは、よく見るといくつも”US”が交差して繋がるパターンでできています。自分が形成される過程でかならず誰かからのインプットがあって、その誰かも他の誰かからのインプットに影響されていて、その関わり合いは永遠に広がっていく。そんな意味で、この名前とロゴを考えました」と、澤野井さんは教えてくれた。

これからのABOUT US COFFEE

「コーヒーの楽しいところ、喜びを感じるところを伝えていきたいです。自分自身、まだ焼いたことのない産地のコーヒーなど、違う個性のある豆に出会えることも楽しみです。新しい発酵豆もあったりして、そういうのもどんどん楽しんで焼きたいですね。周りに素晴らしいロースターさんがたくさんいらっしゃるので、業界で認められたい、というのも腕を磨くモチベ―ションです」そう話す澤野井さん。発信力や、コミュニティ形成なども、既存のロースターを参考にしながら軸をもっと強くしていきたいと考えている。

「アパレル業界はブラック、と言われがちな中、僕がつとめていたブランドでは休憩や休日もしっかりあった労働環境だったんです。残念ながら、飲食業界もまだまだな部分があるので改善したいですね。バリスタのお給料も、技術が身につくだけでなくきちんと経済面も見込めるような待遇を補償したいので、パートタイムでたくさん雇うのではなく、少人数フルタイムで週5~6日、という形をとっています」と澤野井さんは説明する。

柔らかな物腰とフレッシュな語り口が印象的な澤野井さん。他業種からの経験を鮮やかに新しい接客アプローチに昇華させた手腕と、思わず写真を撮りたくなる魅力的な店内や自分の「好き」に出会える空間は、京都でカフェ巡りをする人々にとって益々欠かせないものになるだろう。今後の道のりも注目必至のコーヒーロースターだ。

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