芯のある声で「何でも聞いてください!」と、快く取材に応じてくださったのは、国分寺にあるLife Size Cribeの吉田さん。 Kurasuのコーヒーサブスクリプションで提携するカフェ・焙煎所だ。
新卒時、縁があり決まった飲食業界の企業で、コーヒーに関わる仕事をスタート。持ち前の向上心と行動力を活かし最短で店長に就任した。日々喫茶店という場への思い入れは高まり、勤務開始まもなく、30歳までに独立したい、自分の店を持ちたいと思うようになったという。仕切っていた喫茶店では、全てオートメーションでボタンを押せば規格通りのコーヒーが出来上がる仕組みで、バリスタや焙煎、と言っても、「誰かがやっている仕事」という認識にとどまっていた。
忙しく働いていたその頃、所属企業の別業態として、イタリアンバルがスタート。初めて間近に目にしたエスプレッソマシンに、メカニック好きの血が騒いだ。
すぐに異動を願い出るも、なかなか思うように話が進まず、居ても立っても居られなかった吉田さんは、右も左も分からぬまま、自らマシンを買っては壊し、グレードアップしては壊し、を繰り返す日々を送った。
さらに、毎日仕事が終わるとすぐにバリスタについて調べ、バリスタがいる店を端から訪ねては、色々な話を聞かせてもらい勉強した。
知識が増えるにつれ、バリスタになりたい、今の自分の仕事は本当にやりたい事ではない、という思いを募らせた吉田さん。まだこの時点では、バリスタという職業への憧れがひたすらに強く、コーヒー自体の味わいや、コーヒーを淹れることを職業にする意味を自らに問うところまでには至っていなかったという。
しかしそんな状況を一変させるような衝撃の出会いが訪れる。
ある日ポールバセットに入りエスプレッソを頼んだ。いつものように砂糖をたっぷり入れて飲もうとした瞬間、今ではエアロプレスのチャンピオンとして名を馳せる佐々木氏に、「できればお砂糖入れずに飲んでみてください」と話しかけられたのだ。半信半疑で飲んでみたその一口に衝撃を受けた。信じがたいほど甘く、まるでダークチョコレートをなめているような味がしたのだ。あまりの感動に、しばらくは鳥肌が止まらなかったほどだという。さらに当時のポールバセットには現在Onibus Coffee代表の板尾氏やFuglen Tokyo代表として活躍する小島氏も在籍し、まさにサードウェーブを担う強者揃いだった。
それからは猪突猛進、アルバイトとしてでもいいから雇ってくれ、と5回ほど履歴書を送ってみたが、手応えなし。地道に業界で人脈を広げていくなどの努力もしたが、なかなか実を結ばなかった。
一旦は地元に戻って友人の手伝いをする日々を送ったが、そんな時に転機が訪れた。ポールバセットが渋谷ヒカリエに新店舗を出店、オープニングスタッフの募集を開始したのだ。
ここで以前に知り合い交流を深めていた方の口利きで、無事採用が決定する。またそこからが吉田さんの力の見せ所。とにかくできるだけ多くを学びたい、その一心で、与えられる仕事をこなすだけでなく、ひたすら先回りをしては、あらゆるすきま時間に、自分で考えたことや学んだことをプレゼンしていくという情熱を見せた。
その向上心と必死で積み上げた経験の甲斐あって、吉田さんは見事、二人分しか枠のないバリスタの地位を勝ち取り、さらに社員だけが関われる焙煎にも関われるようになった。
こうしてコーヒー業界を駆け上がっていった吉田さんだが、以前からの独立への夢は褪せることなく輝いていた。知識や経験が増えるにつれ、さらに自分なりのアウトプットがしたいと強く思うようにもなり、独立へ向け、あえてアルバイトの身に戻してもらい、ボンダイコーヒーサンドイッチで兼業するなど、ひたむきに吸収し、人脈も広げていった。少しでも空いた時間があれば、コーヒーにまつわる文献を読み込むなどし、幅広く知識の根を広げた。
頑強な意志と、他の追随を許さぬ努力ぶりでめきめきと力をつけた吉田さん。仲間の力添えや様々なめぐり合わせで、30歳という目標よりなんと3年も早い、27歳の年にLife Size Cribeをオープン。Life Sizeという言葉には、Life Styleほど大げさでない、「等身大」の姿勢を大切にしてきた自分の半生を振り返るような気持ち、そして、訪れるお客さんに、コーヒーをもっと等身大で楽しんでほしい、という気持ちを込めた。
日本で初めて焙煎をはじめたコクテール堂のある西東京、国分寺という地で、新しいコンセプトを発信していくことで、人々のコーヒーの飲み方、コーヒーとの関わり方を新しいジャンルとして確立したい。歴史に残るような、何かが始まった地、店として名を残したい。吉田さんの猛進は続く。
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