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EMBANKMENT COFFEE (大阪)2017年4月の #クラスパートナーロースター

次にご紹介する#クラスパートナーロースターは、大阪のEMBANKMENT COFFEE(エンバンクメントコーヒー)。


EMBANKMENT COFFEEが店を構えるのは、大阪・北浜。大阪の商業の中心地だった船場の北の端に位置し、現在では史跡や当時をしのばせる建造物と、金融街らしく立ち並ぶ高層ビルとが混在している。暖かい日には土佐堀川沿いで川床を楽しむ人々が訪れるこの地は、若者の街と評される事の多い大阪の他のエリアと比べやや落ち着いており、街歩きを楽しみたい日にふさわしい場所だ。

土佐堀川に面した二軒長屋を改装したEMBANKMENT COFFEEは、和風の店構えにモダンなインテリアのギャップが目にも楽しい。日の光を受けてきらきらと輝く川面を臨むテーブルで、ロースターとして店を切り盛りする青野さんにお話を伺った。



染物職人から焙煎士への転身


何か違う仕事がしたい―そう考え、20代の頃から腕を磨いてきた京都の染物業を離れて飲食業界に足を踏み入れたのは、30歳の時だった。エスプレッソマシンも扱う仕事を通して徐々にコーヒーに心惹かれていった青野さんは、35歳になる頃にはコーヒーを仕事にしたい、特に自らの手で焙煎をしてみたいという思いを抱くようになる。

そんな時、大阪・堺をはじめ数店舗を経営するELMERS GREEN(エルマーズグリーン)が自家焙煎を始めるにあたりスタッフを募集しているのを見つける。「これしかない、と思いました」と青野さんは話す。


ELMERS GREENは、オーナーがドイツやイギリスなどで目にしたカフェ文化を日本に、そして大阪に実現したいという想いから生まれたカフェだ。当時ELMERS GREENではKAFE工船などからコーヒーを仕入れていたのだが、「ホームメイドを掘り下げる」という目標の下に、製パン、製菓、スペシャルティコーヒー豆の焙煎などを自分たちで手掛けようとしていた時期だった。


こうして、現在もELMERS GREENで焙煎を担当する原田さんと共に、焙煎未経験の二人がELMERS GREENに飛び込んだ。焙煎のためのスペースと、プロバットだけが与えられ、生豆の仕入れ方、焙煎方法などの全てがゼロからのスタート。本、インターネットで見つけられる情報、海外のサイトなどまでにも片っ端から目を通し、言葉が分からないものはGoogle翻訳を駆使してなんとかニュアンスをくみ取った。さらに、同じ関西でプロバットを扱うロースターとして、WEEKENDERS COFFEEの金子さんに挨拶に行ったのをきっかけに、焙煎についての意見交換やアドバイスも積極的に受けに行くようになった。同世代の金子さんは今でも貴重な恩師であり、同志でもあるという。


「プロバットのいいところは安定感のある鈍さ」というのは、青野さんのユニークなプロバット評だ。その反応の鈍さがあるからこそ表現できる味や採用できるメソッドがあるのだという。決して洗練された焙煎機だとは思わないが、味わい深い良さがある、と青野さんは目を細める。


焙煎の特訓を始めて1か月ほどですでに全てを自家焙煎に切り替えた。「今思えば無謀だったかも」と青野さんは笑う。はじめはそれまで仕入れていた深煎りの豆のテイストを真似て焙煎を行っていた。しかし、WEEKENDERS COFFEEで浅煎りに出会ったのをきっかけにスペシャルティコーヒーにも興味を持つようになり、そのクリーンな酸味やフルーティーな風味を知ってからはのめりこむ一方に。さらに友人から旅の土産にアメリカのスタンプタウン・コーヒー・ロースターズなどのコーヒー豆をもらい、こんなコーヒーを日本でも焙煎できたら、と夢を膨らませるようになった。

この頃には、浅煎り・中煎りに挑戦する青野さんと、深煎りを安定させていく原田さん、という役割分担が自然と出来上がっていた。従来深煎りが主流であるELMERS GREEN、ひいては大阪において、浅煎りにこだわった焙煎に専念できたのは恵まれた経験だったと青野さんは語る。


当時のELMERS GREENのスタッフも、飲むのはみな深煎りばかり。今の基準でいう中煎りほどの焙煎でも、チーム内で受け入れてもらうのには時間がかかった。初めて浅煎りを飲んだ時に感じる、「これで合っているのか分からない感覚」がスタッフらにもあったのではないか、そう青野さんは振り返る。


しかし次第にこれもコーヒーなのだ、という認識が広まり、東京でもオニバスコーヒーなど海外のスタイルを感じさせるコーヒー店が増えてきたことも助けとなって、浅煎りの採用が決定した。現在はELMERS GREENのスペシャルティコーヒー専門焙煎事業部といった形で、浅煎り専門ロースターとして経営しているEMBANKMENT COFFEE。いずれ、大阪ではまだ数少ない浅煎り専門店として名を挙げたい―青野さんの猛進は続く。



EMBANKMENT COFFEEの焙煎とは?


「EMBANKMENT COFFEEの焙煎を一言で表すと?」という質問に対する青野さんの答えは、「バランス」。ただし、全ての要素を同じ点数にするという意味ではないという。「その豆の個性を意識してバランスを取っていくんです。特性だけをどーんと押し出せばいいとは思っていません。それだとファーストインパクトは良いのですが、飲み進めていくうちにしんどくなってしまいます」と青野さんは言う。


生豆を選ぶ基準は、それぞれの産地らしさがあり、その中でクオリティが高いと思うもの。例えばコロンビアのコーヒーで、まるでエチオピアのような風味があるものがあったとする。それはそれで焙煎してみたいという意欲は掻き立てられるのだが、それは青野さんが目指すものではないのだという。青野さんが見つけたい原石は、その風土、ワインで表現されるところのテロワールを表現して輝くものなのだ。


青野さんが心がける焙煎は、あまり無理な力を注ぎこまないようにすること。焙煎の過程でロースターの好みやくせは必ずある程度反映される。個人的な考えや、こうすればもっと良くなるだろう、そんな気持ちを最小限に抑え、「その豆のなりたいように」焙煎するのだという。

甘さなど、何かを突出させるのではなく、その豆の特性をつかみ、その他の要素をうまく整え、まとまらせるという感覚―焙煎によって生豆をコーヒーにする作業で、青野さんが一番やりがいを感じる部分だ。


「職人の世界での経験というものは確実に今の焙煎や抽出に生きていると思います」と青野さんは断言する。カフェでの作業はチームプレーであり、周りの意見を聞き、取り入れながら動いていく。しかし焙煎する時は、しばしば一人の世界に没頭し、延々と考えに耽ることも多く、それは染物をしていた時の感覚に非常に近いものがあるという。


べったりとただ色を重ね塗るのでは表現できない染物の美しさがあるように、生豆にも焙煎によって簡単に消えてしまうフレーバーや、良くも悪くもいかようにも変わるフレーバーがある。どちらも突き詰めれば自然現象を相手にした作業とはいえ、そこには確実に人の手が介在している。しかし、無理矢理に手をくわえたり、なすがままにしているのでは絶対に表現できない領域というものがある。それを整え、そっと引き出すのに必要なだけの適量の技術―青野さんの姿勢は、その理想と技術を一体にする道を究めようとしているように感じられる。



これまで、そしてこれから


2017年10月のオープン以来、順調に賑わいを見せているEMBANKMENT COFFEE。

「浅煎り専門」と聞いて訪ねて来る人も多く、大阪にも浅煎りのファンがたくさんいるのだなと思うと嬉しい、と青野さんは言う。理想を言えば、わざわざ「浅煎り」と謳うのではなく、普通のコーヒー屋さんとして、そのスタンダードとして浅煎りを出したい。しかし今は、SNSなどで「東京にあるようなコーヒーを飲みたかったが中々見つからなかった、EMBANKMENTがあってよかった」というような声や、「深煎り派だったけれどこれも美味しい」というような声を見つけては、小さくガッツポーズをつくる日々の積み重ねだ。


最近京都にオープンしたブルーボトルコーヒーなどの事を考えては、大量に豆販売を行っている様子を見習いたいと感じたり、シングルオリジンや浅煎りのみにこだわるよりは、万人受けする味や価格帯を目指さなければ客足も増えないのでは、と迷ってみたりもする。

しかし同時に、あまり無理しすぎても良くないな、と思えるのが青野さんのバランスの良いところ。コーヒー教室やカッピングなども積極的に開催しており、今後は、ロースタリ―やコーヒースタンドを立ち上げ、家で抽出を楽しむ人や、コーヒーカップを片手に通勤する人を増やしていきたいと考えている。肩の力を抜いてしかし着実に、青野さんの歩みは関西のコーヒー文化を変化させている。

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