次にご紹介する#クラスパートナーロースターは、大阪・西区に位置する西区にあるワインとコーヒーの専門店、TAKAMURA Coffee Roasters.
大きな倉庫のような外観と、高い吹き抜けの天井、大きなガラス窓からさんさんと陽の光が差し込む店内には、思わず圧倒されてしまうほどの数のワインボトルがずらりと並んでいる。1992年の創業以来、輸入食品や雑貨なども幅広く取り扱うリカーショップだったというTAKAMURA Coffee Roastersが、ワインとコーヒーの専門店として生まれ変わったのは2013年の事。サービス内容の専門性を高め、深い知識と高い技術を持つスペシャリストがお客様のお問い合わせにしっかりと応えられる場にしたいーそんなオーナーの思いにより、大改装が行われて以来、大阪を代表する存在として業界をけん引している。
元々リカーショップということもあり、店の専門はワインだ。しかしワインに関しては生産者の顔が見え、テロワールについてもきめ細やかに説明を受けられる一方で、食後のコーヒーが今ひとつというレストランも多い事に着目したオーナーが、コーヒーもワインと同じくらいしっかりと品質の良いものを提供したい、そう考え現在の二本柱が確立したのだという。その柱の片方、コーヒー部門で焙煎を任されているのが、今回Kurasuのインタビューに応えてくださった岩崎さんだ。
岩崎さんとコーヒー
ローリングの35㎏という巨大なスマートロースターを相棒に、TAKAMURA Coffee Roastersの味を日々作り出す岩崎さんは、大会にも数多く出場し、ジャパン コーヒー ロースティング チャンピオンシップ (JCRC)準優勝、そして世界での舞台でも活躍する経験を持つが、20代後半まではコーヒーとは全く関わりのないキャリアを積んできた。
そんな岩崎さんの趣味は、ヴィンテージの洋服や家具。アメリカンカルチャーに心惹かれ、その文化を伝えるような活動に興味を持っており、休みの日には古着やヴィンテージ家具を探して店巡りをして過ごしていた。20代中盤を迎える頃には、大阪は探しつくしたと感じるようになり、月に一度夜行バスに飛び乗り東京まで足を延ばすようになったのだという。
当時の行きつけは代々木にあるカフェバー。テーブルウェアも取り扱う店で、何度も通ううちに飲食業にも興味が湧いたこともあり、そこで働くバーテンダーと知り合いになったという。ある日、近くに北欧のヴィンテージ家具を扱うショップができたと教えてもらい、早速訪ねる事にした岩崎さん。それが彼のコーヒーとの出会いだった。
教えてもらった店というのが、実はFuglen Tokyo。カフェ、バー、家具屋という三業態で営業していたFuglenには、現在のTRUNK COFFEE代表である鈴木さんを含め、後に日本のサードウェーブを代表する存在となった人々が揃ってコーヒーを淹れていた。そんなこととはつゆ知らず家具を見に訪れた岩崎さんだったが、落ち着いた店内の様子に誘われ、せっかくだから、とコーヒーを飲むことにした。実はコーヒーは苦手だった岩崎さん。しかし一口飲んでみて、その紅茶の様な味わいに驚いた。そして何より、苦手だと思っていたコーヒーを飲めた事、更に美味しいとまで感じたことに驚いた、そう岩崎さんは振り返る。
浅煎りのコーヒーの背景にはノルウェーの気候や風土があること、レモンやチョコレートといったフレーバーの表現方法など、丁寧な説明を受けたが、その時は半分ほど理解するのがやっと。しかし衝撃はいつまでも岩崎さんの心に残り、もう一度、またもう一度と月に一度の東京旅行の度に立ち寄るようになり、次第にFuglen Tokyoを訪れるのが旅の主目的となったほど。こうして岩崎さんは、どんどんとコーヒーにのめり込んでいった。
後ろ髪を引かれる思いで大阪に帰った岩崎さんは、早速地元でスペシャルティコーヒーを扱っている店を探し始め、そこで見つけたのがTAKAMURA Coffee Roastersがコーヒー部門を立ち上げたという情報だった。それ以来2、3年ほど、豆を買いに通っては、コーヒー業界で働きたいという気持ちをくすぶらせたまま過ごしていたという岩崎さん。当時大阪ではスペシャルティコーヒー業界は始まったばかりで、オープニングスタッフも飽和状態。仕事を見つけるのは困難だった。タイミングを待って過ごしていた間にも、Fuglen Tokyoには足しげく通い、イベントを手伝った関係で実際にマシンを触らせてもらいながらトレーニングを受けるなどの指導も受けることができた。
得意分野を仕事にしたという自負もあり、当時の職場には不満もなかった。しかし一度火が点いたコーヒーへの想いは消えず、紆余曲折を経て、ついに念願のTAKAMURA Coffee Roastersにバリスタとして職を得る事になる。
働きだしてからほどなく、縁あってハンドドリップチャンピオンシップに申し込みをした事がきっかけにはずみがつき、エアロプレスチャンピオンシップなど様々な大会に数多くチャレンジしたのもいい思い出だ。
「好きじゃなかったから、どうしてもそこから掘り下げよう、勉強しようという気持ちになれないですよね。得意と好きは違うんだ、コーヒーについてなら、こんなにどんどん気持ちが湧いてくるんだ、と感じました。タカムラはいつも自由にさせてくれたので、動きやすかったのもあり、なんでも挑戦できました」そう岩崎さんは振り返る。コーヒーについて知りたいという探求心、好奇心が尽きる事はなく、半年後には焙煎への興味も芽生え始め、ついにヘッドロースターとしての道を歩み始める事となる。
TAKAMURA Coffee Roastersの焙煎
ローリングのスマートロースターで焼くコーヒーの特徴は、綺麗ですっきりとした味わいだと岩崎さんは説明する。甘さというよりも明るい酸が表現でき、深煎りにしても軽くて飲みやすい焼き上がりが特徴だ。
そんなローリングに加えて、岩崎さんの相棒は実はもう一つあった。それがディスカバリーのサンプルロースターだ。焙煎に興味を持ち始めたころ、大型マシンの横でしばらく誰にも使われず、埃をかぶっていたというディスカバリーを見つけた岩崎さん。早速使用許可を得て、毎日営業が終わるとすぐに焙煎に取り掛かった。簡単な使用方法は指導してもらったものの、知識は全くのゼロ。強火で5分ほどで一気に焼き上げてみたり、自分なりに考えた実に様々なやり方をとにかく試していった。
それ以降、その熱心さが認められ、LANDMADEの上野さん、ROKUMEI COFFEEの井田さんなど様々な焙煎士に指導を受ける機会を得てぐんぐんと上達していった岩崎さんは、とうとう社内で焙煎を任されるまでに成長した。
「焙煎を始めて2年ほどになりますが、個人で焙煎所をオープンしたり、一般的な流れでステップアップを経た大多数の人々と比べると、経験年数の割には非常に多くの知識と経験を得られたと思います。それは全て、周りの方々が惜しみなく分け与え、教えてくださったからです。JCRCでの成績も、皆さんのおかげだと思っています」と岩崎さんは言う。
出会うべき人々と、出会うべき時に出会い、助けられ、ここまで引き上げてもらったー岩崎さんの心の中には、そんな深い感謝の念があるのだ。
更に、35㎏という大きな窯で、COEなど少量だけしか出さない豆を焼く技術をとことん磨いた事も当初予測していたよりもはるかに上達した原因の一つだと岩崎さんは振り返る。
「シングルオリジンに関しては30ほどの種類がありますし、COEも量が少なく失敗が許されない。そんな環境で焼き続けた事で、順応性が養われたかなとは思います。」
今では大会に出て、ラッキーやギーセンなど他社の焙煎機をいきなり触ってみても、すんなりと調節し柔軟に対応できる、そんな素地が培われた貴重な経験だ。
これからの岩崎さんとコーヒー
将来の展望は、という質問に、今後は生産地とダイレクトにやり取りしたいという気持ちがある、とまず答えた岩崎さん。JCRCにも出続け、優勝を目指すべく個人の修練にも余念がない。更には大阪という地で、スペシャルティコーヒーをもっと広めていくにはどうすればいいのか、その探求心は強まる一方だ。
コーヒーには、生産地から来た、誰も手を抜けないバトンがある、と岩崎さんは考える。実となり、収穫し、発酵させ、精製し、焙煎し、挽いて抽出するーどんどん素材が形を変えていく中で、いかにその良さを壊さずにカップまで届けるかを考えれば、その最終段階である焙煎・抽出を担う人間として、改めてその責任を感じるという。コーヒーがたどってきた途方もなく長い道のり、それに付随する文化や環境を含めて、最後の消費段階であるカップに落とし込みながらお客様にもその面白さを伝えられたら、そう願っているのだ。
「タカムラの味や、空気感が伝わるようなコーヒーを焼きたい。素材本来の味は大切にしつつも、飲んだだけでぱっ、と焼いた人の顔やタカムラで過ごす時間が浮かんでくるような、タカムラのコーヒー、と分かるようなものを焼きたいんです」と岩崎さんは話す。
岩崎さんにとって「美味しいコーヒー」とは
「自分がCOEやスペシャルティコーヒーを扱っている身で言うのも何ですが、今までの人生で一番おいしかった一杯は、と聞かれたとして、その答えが『彼女と海辺で飲んだインスタント』でも良いと思っています。美味しいコーヒーというのは、味はもちろんですが、コーヒーを楽しむ場所、そこに流れる音楽や、土地の気温や個性などを感じてトータルで美味しい、というのが自分は好きですね。少なくとも、タカムラに来てくれる方々にはそんな総合的な空間を提案し、提供していきたいと考えています。」そう話す岩崎さんの姿からは、技術だけにとどまらず、美味しい一杯を提供する事への柔軟なアプローチが感じられる。「バリスタ達にもいつも、美味しかったら何してもいい、と言っているんです。
新しいもの、おもしろいもの、その人にしか出せない味、そういうものを貪欲に探求してほしいし、自分もそうありたいと思っています」そう岩崎さんは言う。
「ただの偶然から始まった」と岩崎さんは来た道を振り返る。しかし、自分が好きなもの、情熱を傾け続けられるもののストーリーや背景にある文化を、その良さを、借り物ではない自分の言葉と手仕事で伝えたい、そんな思いはヴィンテージ家具を探し歩いた日々の中ですでに岩崎さんの中にあった。それがコーヒーとの出会いも引き寄せ、カルチャーの語り手としての岩崎さんを今いる場所に自然と導いていったのではないだろうか。
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