京都のコーヒースタートアップ Kurasuでは、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが活躍しています。ヘッドロースターとともに、たくさんの豆を焙煎し、Kurasuのコーヒー豆のクオリティコントロールを担当しているMoo(ムー)もその一人。近年、大きく発展しているコーヒー生産地、タイの出身の彼が抱いているコーヒーへのパッション、そしてKurasuに入社してからの成長する「今」に迫ります。
タイのガンプラ少年が日本でものづくりに挑むまで
——現在、Kurasuでどのような業務を担当しているのでしょうか。
ヘッドロースターのTakuyaさんと一緒に豆の焙煎や品質管理を行いながら、梱包や発送作業も手伝っています。さらに、コーヒー器具を検証し、その結果をわかりやすい形に視覚化したり、最近ではタイ産の豆を輸入して商品化したりもしました。自分の持っているスキルを活かして、より美味しいコーヒーを届けるために創意工夫を重ねています。
——タイ出身だとお聞きしました。どのような経緯で日本に来たのですか。
私は日本のガンプラが好きな少年でした。だから、純粋に「プラモデルを作る工場で働きたい」と思い、日本に来ました。それから日本語学校に通い、キャラクターデザインを描いたりもしていました。
でも、両親が自営業をしていたこともあり、ビジネスとクリエイティブを融合させた何かを生み出せないかと考えるようになって。それで、京都芸術大学でプロダクトデザイン(クロステックデザインコース)を学ぶことに決めました。
目指すのは、タイと日本をつなげるコーヒーブランド。~クロステックデザインコース卒業制作『ムーコーヒー』~
進路を決めた頃は、まだコーヒーを好きになって1年も経っていませんでしたが、大学での研究と好きなコーヒーを組み合わせて何かできないかと思っていたんです。
——コーヒーはいつから好きになりましたか。
大学生になるまで、スペシャルティコーヒーというものを全く知りませんでした。タイでは父が缶コーヒー、母がカプチーノを飲んでいて、私にとってコーヒーは「大人が飲むもの」というイメージでした。コーヒーの味について考えるようになったのは、日本に来てからのことです。日本語学校の先輩が勧めてくれたブラックコーヒーを飲んでみたら、苦みが少なく、美味しく感じたんです。その後、話を聞いてみると、産地や精製方法、焙煎度合いによって味が変わるということを知り、探求心が芽生えてコーヒーショップを巡るようになりました。
タイの伝統的なコーヒーの焙煎方法は、大鍋を使って砂糖やマーガリンを加えながら炒り上げるんです。それに、よく「ベトナム式コーヒー」と呼ばれるように、練乳を混ぜて甘く飲むスタイルが多いんですよね。でも、スペシャルティコーヒーでは、コーヒー豆が持つ味わいを引き出すことが重視されていて、育った地域の「テロワール」が味に反映されます。産地ごとの味の違いを楽しむことが、スペシャルティコーヒーに魅了されたきっかけの一つだと思います。
そのうちに、タイ北部でもコーヒーが栽培されていることを知りました。特に、若手の家族経営や小規模農家が、タイのコーヒーの品質向上を目指して、さまざまな実験的なプロセスや計画栽培をしていることも分かりました。それで、その美味しいタイのコーヒーを紹介する内容で卒業展示を構成しようと思ったんです。
ーー卒業展示もすごくボリュームがあり、コーヒースタンドも賑わっていましたね。
そうですね。ドリッパー2つで1日200杯近く淹れていたことを今も覚えています。卒業展示では、単にタイのコーヒーを淹れるだけではなく、その前から産地に訪れて生産者やパートナーの方とコミュニケーションを取った上で、タイのコーヒーを紹介するパネルをしっかり作り込みました。タイ産でなくても美味しいコーヒーは世界中にたくさんあるわけですが、卒業展示をきっかけに、なぜタイのコーヒーを紹介したいと思ったのかを自分でも改めて考えることになりました。
様々な角度からリサーチを進める中で、タイのコーヒーの生産量や輸出量が年々増加しており、成長率に期待が持てることがわかりました。タイはコーヒーベルトに位置していて、北部は標高の高い山々も多くてコーヒー生産に適した条件が揃っているんです。そうした理由から、よりタイのコーヒーを応援したくなりました。
距離が近いからこそ、多くの情報が見える
ーー具体的にどんな条件がコーヒー生産において重要だと思いますか。
やはり地理的な要因は非常に大きいです。雨量や気温など、自然環境がコーヒーに適しているかどうかはもちろん重要ですし、日本からタイは中南米に比べてかなり近いので、オリジントリップ(生産地訪問)にも手軽に行けます。
日本だと中南米やアフリカの生産者に年に1回しか訪問できないロースターも多い中、タイなら飛行機で5~6時間程度なので、比較的簡単に行くことができるんです。アメリカのロースターが中南米を、ヨーロッパのロースターがアフリカを気軽に訪問できるように、日本にとってのその気軽な距離にある国はタイやインドネシアなど東南アジアだと思います。
生産地との距離が近いことは、バリスタやロースター、さらには日本のコーヒーラバーにとっても大きな利点です。農園ツアーに参加して何度も訪問できれば、生産地への理解が深まり、生産者との関係性が強まります。その関係性の中で、豆の味わいや品質、そして日本の消費者の反応などをフィードバックし、コミュニケーションを繰り返すことで、年々クオリティを向上させることができるんです。実際に若手の生産者も多く、タイのコーヒーには大きな可能性を感じています。
ーーどんな可能性を秘めていると思いますか。
ここ数年は、農園の世代交代が進み、親世代から若い世代へと生産者が変わってきています。これが一つの大きな変化だと感じています。現地では、生産者同士が助け合いながら、情報を共有し、お互いの成功や課題を話し合っています。例えば、村の人たちが集まって、それぞれが作ったコーヒーについて意見交換をすることがよくあります。比較的に生産地の中でもサプライチェーンが複雑化しておらず「見える化」しやすい状況だとも思います。
そうしたコミュニティに関わることで「テロワールを作り上げていく」過程に参加できることはとても嬉しいですね。例えば、コーヒーを買って、その味をフィードバックするだけでも、生産者にとっては大切な情報となります。
間に立つ、縁の下の力持ちとして
ーーKurasuにジョインしてからの日々はいかがですか。
私は、Kurasuに入社してから焙煎を始めました。輸入や輸出に関する知識はまだ浅いものの、日々とても刺激的に過ごしています。世界中からサンプルが届き、業界にいなければ出会えないようなユニークな産地や精製方法のコーヒーにも触れられるので、それを楽しみながら経験を積んでいます。
焙煎に関しては、同じ豆でも季節によって焙煎を調整しなければならず、毎週のクオリティコントロールでは微細な味の変化にも気を配っています。そういった日々の経験を糧に、大きく成長していくKurasuの一員として自分も力をつけていきたいと思っています。
ほかには、夷川の店舗でバリスタをしたり、タイの豆を仕入れる企画を立てたりもしています。いろいろなプランをどう実現するかを共に考え、協力してくれるメンバーの存在に感謝する毎日です。
ーーこれからチャレンジしたいことはありますか。
まずは、美味しい焙煎をしっかりと行うことが大事だと感じています。その上で、足元を固めつつも、新しいことにチャレンジし続けたいと思っています。コーヒーをもっとわかりやすく、伝わりやすく届けるために、視覚的に図や表で見せるなど他にも方法はたくさんあるので、どんどん取り組んでいきたいですね。
Kurasuでは焙煎量もどんどん増えているので、しっかりと「コーヒーを届ける」供給の縁の下の力持ちとして、成長していければと思っています。バリスタ、バックオフィスのメンバーに安心して背中を預けてもらえる自分でありたいです!
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