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NAGASAWA COFFEE (岩手) : 2019年11月#クラスパートナーロースター

次にご紹介する#クラスパートナーロースターは、岩手・盛岡のNAGASAWA COFFEE。東日本大震災の翌年、2012年のオープンから今年で7年。オープンまでの道のりや、盛岡のコーヒーシーンを引っ張ってきたNAGASAWA COFFEEが見つめる岩手のコーヒー文化の変化などを、代表の長澤さんに伺った。


NAGASAWA COFFEEができるまで

20代の頃、コーヒーの卸業に携わったことがきっかけで、コーヒーに興味を持ったという長澤さん。それ以降、NAGASAWA COFFEE立ち上げの2008年までは、その他様々な職種を経験しながら、コーヒーはあくまでも、しかし真剣な趣味として勉強を続けた。


「自分が美味しいと思うコーヒー屋さんに、地元で出会えていなかったのがきっかけかもしれません。自分で作ってみたい、自分でやったらどうなるんだろう、という興味から自家焙煎を始めました。手網から始めて、自宅にプレハブ小屋を建てて3キロのフジローヤルで焼くところまで。2008年に開業してからは、催事の出店やネット通販を行なっていました」と長澤さんは説明する。


実は長澤さんは、20代から30代まで、会社勤めをしながら、スノーボーダーとしても活躍していた。「スキー場じゃないような雪山にもよく滑りに登っていて、そんな時にはいつもコーヒーをポットに詰めて持って行った。それでコーヒーが自分にとってより欠かせないものになったように思います。山で飲むコーヒーは本当に美味しくて、味を突き詰めるという意味での『美味しさ』とはまた別に、周りの環境や空気感で味が変わること、そういう意味での美味しさを理解するようになりました」そう長澤さんは振り返る。


その内に漠然と、コーヒーをまた仕事にしたい、という気持ちが芽生えてきたと話す長澤さん。現実はそんなに甘くない、という思いから長い間ためらっていたが、娘の誕生を機に、ライフスタイルに変化を起こす決断ができたのだという。それから数年は、会社勤めを続けながら技術を磨いた。そしていよいよ準備が整い、実店舗の図面も完成し、本格的にオープンすべく契約書に捺印するはずだった日の3日前、東日本大震災が起きた。


それまで積み上げてきたものが全て白紙に返ってしまい、まずは何より水や食べ物が手に入るかどうか、という最初の1ヶ月を乗り越えた時、長澤さんの心の中に、「自分には何ができるだろう?」という問いが浮かんだ。どこから始めれば良いのかわからないほど、どこを見ても目の前には惨状が広がっている。だが自分にはコーヒーがある、そう思いたった長澤さんは、コーヒーを淹れに、避難所を巡った。


「自分のこの先も分からないままやり始めたことでしたが、温かいコーヒーを提供した時に皆がすごく喜んでくれたんです。『美味しい、飲みたかったんだよなぁ』と言ってもらえました。その時の皆の喜んでいる姿や笑顔がとても印象的で、こちらもパワーをもらって。諦めないで、もう一回頑張ろう、そう思うきっかけになりました」と、長澤さんは当時の様子を振り返る。


震災の後3、4ヶ月が経った7月に避難所が閉鎖され、被災者が仮設住宅に移動し始めた頃にボランティアを終了し、本格的に店の開業準備に取り掛かった長澤さん。翌年の2012年に、無事盛岡にNAGASAWA COFFEEをオープンした。


「個人的には浅煎りが好きですが、震災時の経験から、よりたくさんの人に喜んでもらえるコーヒー作りを心がけるようになりました。なるべく多くの人に、という思いで、浅煎りから深煎りまでラインナップを広くとっています」と説明する長澤さん。長澤さんをはじめとするスタッフの皆様のあたたかさや、店のゆったりと居心地の良い空間には、長澤さんのこれまでの人生、そして忘れられない経験がしっかりと反映されている。


NAGASAWA COFFEEの焙煎

長澤さんが初めて買った焙煎機は、フジローヤルの3キロ。「コーヒーを仕事にする、と決めた時、生業にするには、3キロぐらいの規模のものを扱えるようにならなければダメだろう、そう思いました。それでいきなり3キロを買って、サラリーマン時代から夜な夜な色々な焙煎を試して。こうやったらああやったら、を一つずつ試しました。特にどこかで修行したわけではなく全て独学なので、人より時間はかかったと思います。でも、その経験があったから、こうすればこうなる、というのが今でも肌で分かるようになりました。」


それから3、4年が経ち、焙煎量も増えた。新しい焙煎機は、長澤さんが以前から憧れていたプロバットだ。フジローヤルの頃から、プロバットならどうなるだろう、とイメージしながら焙煎もしていたという。「ローリングも考えたのですが、あまりに『機械』すぎて、自分で焙煎してる感じがなくて。手網の頃から、自分の手で探りながらやっていたある意味古い人間なので、今でも匂いや音の要素をすごく大事にしていて、そういう所がローリングでは見え辛かったんです」と長澤さん。


さらにプロバットの中でも、長澤さんの心を射止めたのがオールドプロバット、UGだ。

海外のロースターを飲み比べていて、好きな味わいだと思ったものはほとんどがUGで焙煎されたものであり、さらにUGで焙煎されたコーヒーは劣化が遅く、日持ちが良いのだと長澤さんは説明する。ビンテージとあって入手するのは難しいかと思われたが、幸運なことに希望通りのモデルとの巡り合わせがあったのだという。当時の店には十分なスペースもなく、焙煎機を買ってしまえば移転もやむなしだったが、「今だ!」と思った長澤さんは迷わず購入を決めた。ドイツでのヘルツ変更、モーターの回転数の調整などのカスタマイズを経て、輸入・設置し、1ヶ月間の調整期間の後に新焙煎機での営業を開始した。


岩手のコーヒー文化とNAGASAWA COFFEE

NAGASAWA COFFEEが始まった頃、岩手にはまだ「スペシャルティーコーヒー」という言葉は知られていなかった。歴史ある街にしっかりと根付いていたのは深煎りコーヒーの文化。馴染みのない浅煎りは受け入れられなかった。


「しばらくは深煎りばかり売れました。自分が良いと思っているものと違うものに人気があったり、自分の追い求めているものとのずれもかなり感じました。浅煎りの説明やプレゼンも大切にはしていますが、お客様が好みだというものにしっかりと合わせていける事も大切だと思っています」と長澤さんは言う。


多くの人の多様な好みに応えられるようにと焙煎する内に、深煎りも得意分野になった。しかし最近では、Single OやFuglenのコーヒーを出すカフェも出てくるなど、地域に浅煎りのコーヒーが浸透しつつあると長澤さんは感じている。7年間盛岡でコーヒーを出し続け、浅煎りの良さを知ってくれる人も増えた。他のカフェなどから相談を受ける事もあり、そんな時には自分の経験や知識を惜しみなく共有するという。


店舗の広さも印象的なNAGASAWA COFFEE。ゆったりとした空間は、地方都市ならではの強みだ。「この規模を東京で、個人事業でやるのは難しいと思います。東京でできないことをやりたい。都心は何でも早いし進んでいるし、地方の者からすると、キャッチして取り入れなきゃ、とばかり思いがちです。取り入れるのは良いのですが、それを盛岡に置き換えて、盛岡でしかできないことを考えて形にするようにしています。本質的なコーヒーの味はもちろんですが、飲む場所や環境でも味わいは変わるんだと言うことを念頭に、リラックスできるところで飲む空間を作れるよう、スペースを広めに取っています」、そう長澤さんは言う。


将来への展望

店舗を開業した翌年には、エルサルバドルを訪問し、それ以来タイ、エチオピアと、農園も訪問している長澤さん。実際に訪問することで、農園の置かれている状況や生産者の貧しさを目の当たりにした長澤さんは、自分たちだけでできる事は少しでも、現場の人々と繋がって、どうすればその人たちの生活が潤うのだろうと考えるようになったと言う。今後も取り組み続ける課題だ。


農園の訪問に加え、台湾でのポップアップや、東京・仙台などでのイベント出店など発信も欠かさないNAGASAWA COFFEEだが、やはり一番の目標は地元・盛岡への貢献だ。


「コーヒーの良さ、良いものの高級さを伝えるのも一つの仕事ですが、それ以上に掘り下げていきたいと思っています。美味しいコーヒーが日常で当たり前のものになってほしい。質のいいコーヒーが普通に街に溢れているような環境作りに貢献していきたいです。メルボルン、コペンハーゲンと、美味しいコーヒーで有名な都市を訪れると必ず感じることが、人々が美味しいコーヒーを当たり前に楽しんでいるところは、文化、芸術も同じく豊かであると言う事です。コーヒーはその場所の暮らしの豊かさの指標の一つになるのではないか。そう考えて、盛岡もさらに成熟していく上で、コーヒーを通してその役に立ちたいと考えています」と長澤さんは言う。NAGASAWA COFFEEは、岩手のこれからのコーヒーシーンに、これまで以上に欠かせない存在になっていく事だろう。

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